完全リモートワークになると、ディレクターは対面とは違ったコミュニケーションが求められます。
対面でディレクションが上手だとしても、オンラインは勝手が違います。なので、オンラインの特性を理解し、オンラインに即したコミュニケーションを取ることは、これからのディレクターのキャリアを積み上げる中で非常に大切になってきます。
そこで、今回はディレクターのリモートワーク・ディレクション術を5つご紹介していきたいと思います。
技術1:クライアントの価値観やセンスをプロジェクト側になびかせる
担当者や担当者周辺のキーパーソンの認知をピックアップし、認知をすり替える
リモートになると、対面のような肌感覚が失われます。良い意味でも悪い意味でも、クライアントはこちらに対して一歩引いた眼を持つことができるわけです。
そうなると、これまで空気感で成立していたこちらの進行に対して、疑念や修正箇所を冷静にとらえることができるようになります。
そのため、まず最初に、クライアント(担当者や決裁者)などの考え方やプロジェクトに対するセンスをきちんとヒアリングする必要があります。
そして、相手の常識や価値観を理解したうえで、プロジェクトの障壁になる部分については、こちらが相手の常識を正す必要があります。
例えば、デザインの細部にこだわってなるべく良い物を作りながら、売上拡大を図りたい要望があったとします。しかし、その要望にすべて応えると予算オーバーになる時は、「デザインクオリティの落としても、集客効果が高いサイトができること」を実例などで示しながら、伝えてあげると良いでしょう。
もしくは、デザインをこだわりすぎたことで、成約率が下がった例などを示し、「デザインと集客の両方のバランスが取れたサイトこそ正義だ!」という価値観をクライアントに植えつければ、細部の修正を減らすことができる可能性が高まります。
クライアントのセンスをプロジェクト側に寄せる際は、クライアントのセンスを全否定してはいけません。「実は、こういう風に作った方が売上拡大に効果的ってご存じでしたか?」という風に、相手を否定せずに、こちら側が刷り込みたい情報を伝えていくようにしましょう。
技術2:多くのビジュアルを用意し、不等号的に簡潔に詰めていく
純粋にコミュニケーションだけに頼らずに、「Aという既存の制作物」と「Bという既存の制作物」を魅せて、クライアントの感想を聞いていくやり方です。
事前に軽くクライアントの希望をリサーチし、打ち合わせの段階で比較対照できるものを15個ほど用意しておきます。これは自社の制作物であるとより望ましいです。なぜなら、自社で作ったものの中でクライアントがピンと来るものがあれば、そのデータをテンプレのように扱い、改変すれば、クライアントが好むオリジナルなものになるからです。
デザイナーへの指示もしやすくなります。
「A > B」
「B > C」
「B = D」
「D > E > F」
このように、さまざまな観点からビジュアルに対してどう考えるかを見ていきます。聞けば聞くほど、こだわりのあるところ、こだわりのないところが浮き彫りになり、どんな風に仕上げればよいのか見えてきます。
技術3:全体を俯瞰させニーズと結びつける
これはどのディレクションにも言えることですが、「細かいことを気にさせない技術」がリモートでは特に重要になります。
また、「この会社(ディレクター)には、その都度、思いついたことを言えばいい」と思われるのもNGです。逆に「この会社(ディレクター)が提案したことをすべて受け入れるべきだ!」となれば、プロジェクトは確実に安定してきます。
そのためには、クライアントへ制作全体を捉えさせることが重要です。「全体としてこの感じなら、自分たちのニーズを満たせそうだ!」という感覚をクライアントに植えつけるのです。
そのためには、作ったものの根拠をしっかりとプレゼンテーションする必要があります。
既存の制作物のビジュアルをサクサクと見せて、クライアントの要望が可視化できたのであれば、いきなりデモを作り始めるということも良いと感じています。
何を作って欲しいか明確なのに、ワイヤーなどの設計から入ってしまうと、それはクライアントへ細かい視点を促すことになるからです。
大量で詳細度の高いワイヤーフレームは、設計書としては優れているかもしれませんが、リモートではデモを作り一発でクライアントを納得させ、「じゃあ、この感じでそのまま納品まで行っちゃってください!」と思わせる技術もとても大切です。
技術4:シンプルで厚みのある伝達で一回のやり取りで仕留める
クライアント側へも、クリエイター側へもそうなのですが、1回のやり取りできちんと仕留める確実性は非常に大切です。
リモートというのは、現実感がどうしても薄まります。そのため、ディレクターと相手との心理的密着度は薄くなりがちです。
1回のやり取りが希薄になると、次の1回のやり取りに対する集中力も薄くなります。やり取りが多くなればなるほど、1回のやり取りの価値が小さくなり、クライアントとクリエイターは煩わしく思うようになります。
特にクリエイターに対しては、一回の舵取りで物事が確実に前進するという実感を与えることがより重要になってきます。「このディレクターのこの指示をやれば、前進できる!」と信じることができるから、その指示を高いモチベーションでやり切ることができるのです。
一方、ディレクターがリモートだからと言って、その都度思ったことを言い過ぎると、「どうせ、これ気分で言ってそうだから、やっつけでやって、またどうせこのディレクター言ってきそうだし、ここはあんま力入れないでやっておくか」となってしまいます。
シンプルで厚みのある伝達で一回のやり取りで仕留めるようにしましょう。クリエイターもクライアントもディレクタ―に対して、敵対せずに、「そういえば、これって提案になるんですけど、こういうのってどうなんでしょうか?」という頼られる質問がくるのが理想です。
技術5:プロジェクトの本題から敢えて逸脱する
プロジェクトメンバー全体が主体的に動けば、誰かがミスや誤植を自然に指摘し、自然に納品物がアップデートされていきます。
しかし、ほとんどのプロジェクトメンバーが「待ち」の状態を作ってしまうと、大きな過ちになった時点でディレクター自身が気づくことになり、出戻りも多くなります。
このプロジェクトに対して、自律性を持って、主体的で、しかもワクワクできているという感覚をクリエイターに芽生えさせることはとても大事なのです。
そのためには、プロジェクト以外の話題に対して、特に「本音」を掘り下げるようにしましょう。例えば、クライアント側の業界特有の悩みを引き出すのは良いでしょう。
クリエイターに対しては、最近の仕事の調子とか、困っている事、もっと欲しい仕事などを聞いてみると良いでしょう。
本音を開示させることで、ディレクターへの返報性が高くなります。
最後に:リモートで人の機微を感じ、動くことのできるディレクターはリアルでも強くなる
以上、ディレクターのためのリモートワーク・ディレクション術をお伝えしてきました。今回のディレクション術というのは、対面でももちろん重要なスキルになります。
リモートだからこそ、より細やかさが必要になるわけです。リアルでいい加減で済んでいた部分が、リモートによって重要な要素となり、ディレクションのパフォーマンスに直結していきます。ぜひ、今回の記事も参考にしてみてください。