クリエイターとマルチタスク10の真実
クリエイターの皆さんはマルチタスクをどのように考えていますか?同時進行的に複数の仕事をこなすクリエイターはとても「仕事ができるイメージ」があるかもしれません。
そこで、今回はクリエイターにとってのマルチタスクの知識を掘り下げていきたいと思います。
真実1:マルチタスク習慣のある人はマルチタスクが下手
マルチタスカ―はタスクの切り替えがうまくできない
スタンフォード大学のエヴァ・オフィール、クリスフォード・ナス、アンソニー・ワグナーらは、メディアをマルチタスク的に使用する習慣が軽度の人と重度の人を比較し、人の情報処理方法にみられる違いの仕組みを検証した結果、マルチタスクの習慣が重度の人は正答率が低く、複数のタスクを切り替えることがうまくできないことが分かりました。
マルチタスクを習慣的に行うことで、普段から多くのことに意識が散漫的になるため、惑わされやすくなることが示唆されています。
真実2:マルチタスクはデメリットのほうが多い
医学的にマルチタスクは賛成されない
カリフォルニア州立大学ドミンゲスヒルズ校心理学教授のラリー・D・ローゼンは、自身の著書『毒になるテクノロジー iDisorder』で、「医師や精神医療の専門家は、マルチタスクのメリットよりもデメリットの方が多いという共通の見解を持っている」と指摘しています。
<マルチタスクのデメリット>
1.集中しにくい
2.決断力が弱い
3.物事を深く考えられない
4.過度な情報へのアクセス
5.インターネット中毒
6.睡眠障害
7.カフェインの過剰摂取
マルチタスクは自分自身の体を複雑怪奇なものにしている印象を感じます。グロリア・マークによる調査ではコンピューター・プログラマーが自ら作業を中断し再開するまでに平均して25分以上掛かったとされています。また、作業を頻繁に中断するプログラマーは、作業こそ完遂していたものの、1つの作業に集中する傾向のあるプログラマーよりも、業務にストレスを感じていたようです。
真実3:マルチタスクは脳への負担が大きい
マルチタスクは脳の再設定を要求する
カリフォルニア大学アーバイン校で情報科学を研究するグロリア・マーク教授はマルチタスクについて「タスクを切り替えるたびに、脳は注意力を新たに設定し直さなくてはならない」と指摘しています。
コンピューター・プログラマーを観察した調査では、1万回のプログラミング・セッションの半分で、中断した作業への復帰に要する時間が5分以上を要し、プログラマーが1分内に作業に復帰したのはわずか6回に1回という結果になりました。
真実4:マルチタスクはドーパミンを分泌する
マルチタスクは人の気分を良くする
マルチタスクは有害にもかかわらず、快感をもたらすとされています。タスクを切り替える度に、新しさを感じた脳が、ドーパミンを分泌するからです。マルチタスクでドーパミンを分泌することに慣れていくと、さらに刺激の強いマルチタスクを好むようになります。そして、どんどんマルチタスクにハマっていき、心身の気分が優れないといったことが起ってきます。
ただし、ドーパミンが分泌される状態そのものには集中力が働くとされています。ドーパミンは単に「報酬の脳内物質」であるだけでなく、非常に重要な役割を果たす、集中力を保つために絶対に欠かせない物質なのです。ドーパミンが不足すると周囲の音に気を取られ、目の前のことに集中できなくなり、苛立ってきます。神経学の研究調査によれば、ADHDの人の場合はドーパミンの分泌量が増えることで集中力が増すことが分かっています。
だからこそ、マルチタスクで報酬系を刺激する人は、マルチタスクじゃない状態になるとドーパミンレベルが下がります。もっとマインドフルネスな行為に対して報酬系を刺激できるようになりたいですよね。
真実5:SNSをしながらの仕事はパフォーマンスが悪い
情報収集と作業を同時進行にしてはいけない
Nass CとWagner ADが2009年に被験者に異なる図形と色を見せて識別させる実験から、マルチタスクを頻繁に行う人はメディアから常に複数の情報によって注意力が散漫になっていることが分かりました。逆にマルチタスクをほとんど行わない人の方が、気を散らすものを前にしても意識的に注意力を振り分けることに長けていることが分かりました。
SNSのタイムラインを眺めながら作業をしている人は知らず知らずに集中力を失っているかもしれません。気分転換でやっていたものが気を疲れさせるものである可能性があるのです。
真実6:会議中のノートパソコンは集中力を下げる
会議をするときはデジタルデトックスがオススメ
会議中にノート型パソコンを使用すると2分おきに気が散るとされています。また、大学の講義において、ノートパソコンに記入するのと、ノートに手書きで記入するのでは、ノートに手書きのほうが理解度が増すことが示唆されています。
会議でお互いの理解度を深めることも目的に入る場合は、デジタルデバイスをデトックスするべきかもしれません。
真実7:マルチタスカーのほうがクリエイティブ
注意力がない人のほうがクリエイティブである
心理学者のディーン・キース・サイモントは自身の研究で「注意欠陥障害の兆候を示す人びとは創造性に優れていること」を調査によって示しました。注意力が散漫であることは、アイデアを煩雑的に拾うことに慣れているとも言えます。
つまり、マルチタスキングで煩雑な状態を上手く生かすことができれば、自身のクリエイティブ性は高まるということです。また、マルチタスクのほうが、根本的に遊び心があるとも言えます。
真実8:マルチタスクはマインドフルネスを阻害する
一点集中のシングルタスクが最強
脳の中で意識的に行動を規制する能力が最も高い前頭前皮質は、ストレスがかかると真っ先に機能停止します。前頭前皮質の機能が止まると、私たちは馴染みの習慣的行動に逆戻りします。
そこで大事なのが習慣的行動から本当のところ何を得ているのかを俯瞰することです。私たちは1つ1つの行動に対して深いレベルで掘り下げることでセルフコントロール力を増すとされています。
つまり、自分の行動を制御することにおいて、シングルタスクが私たちの認知能力を高めてくれます。セルフコントロール力を高めるために、精神医療の現場では、認知行動療法が用いられているのも、一点集中がセルフケアに効果的だからです。
自分自身の「今-ここ」に深く入り本質に気づこうとする状態こそが、まさにマインドフルネスです。出す方法』,p.76-77, ダイヤモンド社
真実9:マルチタスクできると自負するとマルチタスク能力が上がる
マルチタスクに対しての自己効力感を強く持つ
合計8000人以上の被験者を対象にした複数の調査で、多くのテストにおいて、「自分はマルチタスクを行っている」と考えていた被験者はいい結果を出しました。これは精神的な意味合いにおいて、マルチタスクは人に努力や集中をもたらすものといえそうです。
要は実際のマルチタスクは体に毒ですが、精神性としてのマルチタスクというのは、人の自己効力感を高め、パフォーマンスを引き出す可能性があるのです。
真実10:マルチタスクは幻想
マルチタスクはシングルタスクの切り替えに過ぎない
消費者行動を研究するミシガン大学のShalena Srnaは「マルチタスクは認知の問題であり、幻想のようなもの」だと語っています。
<参考文献>
・アンダース・ハンセン(2018)『一流の頭脳』,サンマーク出版
・シャドソンン・ブルワー(2018)『あなたの脳は変えられる「やめられない!」の神経ループから抜け出す方法』, ダイヤモンド社
・ラリー・D・ローゼン(2012)『毒になるテクノロジー iDisorder』,東洋経済新報社
・エリック・バーカー(2017)『残酷過ぎる成功哲学9割がまちがえる「その常識」を科学する』,飛鳥新社
・Benbunan-Fich,R.,&Truman,G.E.(2009).Multitasuking with laptops during meetings. Communications of the ACM,52,139-141
・Judd, T., & Kenedy, G.(2011).Measurement and evidence of computer-based task switching and multitasking by “Net Generation” students.Computers &Education,56,635-631
・Mark, G., Gudith, D., & Klocke, U. (2008). The cost of interrupted work: More speed and stress. In Computer Human Interactions(CHI), Florence, Italy. ACM, 107-110.
・Ophir,E.,Nass,C.,& Wagner,A.D.(2009).Cognitive control in media multitaskers. Proceedings from the National Academy of Sociences. http://www.pnas.org/content/early/2009/08/21/0903620106.full.pdf+html
・Parnin, C, & Regaber, S. (2009). Resumption strategies for interrupted programming tasks. Software Quality Journal,19,5-34.
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