ストイックなまでにユーザー目線を保ちつつ、常に最適解をアップデートし続ける。
弥生といえば業務ソフトウェアにおける国内シェアNo1を誇る、言わずとしれた優良企業である。最近では事業領域を広げ、業務ソフトウェアおよび関連サービスの開発・販売・サポートに留まらず、AI開発、ビッグデータ分析などFintechサービスにおける注目分野にも進出している。実際に同社のプロダクトに馴染みの深いフリーランスクリエイターも多いだろう。
今回はそんな弥生株式会社でUXデザイナーとして活躍する横山さんと古川さんにマイクを向けて、お二人が弥生に入社を決めるまでのエピソードから同社のプロダクトにおけるUIUXデザインの位置づけ、UXデザインにとって大切なことまでざっくばらんに語っていただいた。
いいタイミングでWebの波に乗った
―お二人ともさまざまなキャリアをお持ちですね
横山:キャリアのスタートはゲーム会社でした。自社商品のサイトやゲームのデータが閲覧できるインタラクティブなサイトを作ったり。ちょうどiPhoneアプリ黎明期だったこともあり、アプリ制作も経験しましたね。そのあと制作会社で、やはりアプリやWebサイトを手掛け、最終的には事業会社で最前線のローンチ部隊に。Webだけでなくフライヤーや駅掲示のポスターなど何でも屋として活躍していました。
古川:私は前職含めてずっと事業会社のインハウスデザイナーでした。直近はヘルスケア機器メーカーの子会社で健康情報を管理するアプリの開発や運用に携わっていました。その前はメディアだったり旅行会社などを転々と。いろんなジャンルの会社を経験しましたね。ただあくまでWebメインで、横山さんのようにポスターやグラフィックはやってません。もしかするとあんまり得意じゃないかも。
―ちなみにどういう経緯でこの世界に?
横山:もともと幼い頃からものづくりが好きで。大学は映像学部を選んだんですが、ちょうどWebがめちゃくちゃ流行り始めたんです。ニコニコ動画とかフラッシュとかが出てきた。私もこれからやるならWebだ、Webのほうが面白いことできそうだ、と思って大学中退して専門学校に通ったんです。
古川:えっ!?そうだったの?
横山:そうそう。映像学部はすっぱり辞めてWebが学べるより専門的なところ、機材も潤沢にあるところへ移ったんです。しかも大手ゲームメーカー資本の学校だったので卒業後にその会社に入れば授業料返してくれるという。まさに渡りに船というか一石二鳥というか。
古川:私は大学卒業の時点で完全に自分探しモードに入ってしまって。もやもやしたまま就職活動して、なんとなく一般事務職として社会に出てしまいました。でもまだ若いし、この先自分は何をしていきたいのか悩みに悩みながら…あらためて自分にあった仕事を模索する中で出会ったのがWebデザイナーだったんですね。そこで働きながら夜間の専門学校に通って、半年で仕事を見つけました。
横山:あの時、あのタイミングで映像じゃなくてWebの世界を選んで本当によかったな、と思います。古川さんがWebに出会ったタイミングもよかったんじゃない?
古川:そうだよね、あの頃はまだそれほどWebデザイナーがメインストリームってわけじゃなかったから大丈夫かな、って感じがあったけど、今考えると本当に良かった。
横山:ビッグウェーブに乗ったと(笑)。まさにWebデザイン第一世代だもんね。
いいタイミングで弥生の募集と出会った
―それぞれ弥生を選んだ理由を教えていただけますか?
横山:キャリアのスタートこそインハウスだったけどその後はずっと制作会社だったんですね。そうなると当然クライアントワークばかりなわけで、作ったら終わり作ったら終わりの連続なんです。自分が関わった仕事がその後どうなったのか知らないことも日常茶飯事。そんな毎日の中でひとつのコンテンツなりプロダクトに張り付いて一緒にスケールしていくのをやりたいな、と思うようになったとき、ちょうどたまたま弥生の募集があって。
古川:これまたタイミングよく。
横山:ホント、運良く。弥生って会計ソフトがあまりにも有名じゃないですか。そんな大手が新しい時代の弥生を作っていくデザイナーを募集、とあったのでチャレンジしてみようと。実は私の祖母が昭和から平成にかけて下町で洋品店やっていて、幼い頃よく預けられていたんですが、深夜遅くにそろばんをパチパチやりながら分厚い帳簿とにらめっこしてるのを見てたんですね。あの大変そうなのがパソコンで簡単にできるのって素晴らしいと。そして、そういうのを助けられる仕事っていいな、と思ったんです。
―子供の頃の思い出とキャリアが繋がった瞬間ですね
横山:そうですね。すでにその頃はある程度スキルもあってUXの改善などにも取り組んでいたし、人を助ける力がデザインにはあるなと感じていたので。
古川:私はずっとインハウスひと筋で。自分の性格からも事業会社で自社のサービスを育てていくのがあっていると思っていました。転職のきっかけは前職の会社ではプロトタイピングみたいな新しい手法が試しにくかったというのと、キャリアビジョンで悩んでいたんです。この先自分は定年までこの仕事で走り続けられるのだろうか、と。
横山:Webデザイン第一世代なのでロールモデルがなかったしね。
古川:そう。それでいま考えると謎なんですが、キャリアコンサルタントという国家資格をスクーリングで取得しまして。何がしたかったのか自分でもちょっとわからないんですけど、デザインという答えがない仕事に限界を感じていたり、さっきも言った通り将来への漠然とした不安を抱えていたんですよね。で、資格取得したまではいいんですが…資格を活かして働けるイメージが結局持てなかった。
―そうだったんですね…
古川:ただ、資格取得の勉強を通じて労務や総務をはじめとするバックオフィス業務を知るわけですよ。なるほどこういう仕事もあるのか、と。そのタイミングで弥生の募集を見つけて。これは自分のキャリアやスキルも活かせるし、勉強したこともまるっきり無駄にはならない。しかもこれまでエンタメ系を中心に楽しく新しいサービスにばかり飛びついていたんですが、キャリアを重ねるにつれ仕事に社会的意義を見出したくなってきたんですね。そこで応募したというわけです。
横山:やっぱり誰かの役に立つ手応えが欲しくなるよね。その気持ちすごくわかるし、古川さんもベストなタイミングで弥生の募集と出会ってるんだね。キャリアコンサルタントの資格取得ともつながっているし、勉強したことも無駄じゃなかったと思いますよ。
歴史ある会社での社内ベンチャー
―いまのお仕事について教えていただけますか?
横山:新規事業のプロダクトにおけるデザイン全般ですね。製品に使うデザインのシステム、ガイドラインやライブラリを作っています。
古川:横山さんと同じチームですが、私はサービス側に張り付いていて。サービスそのもののUIUXデザインを担当しています。最近だとインボイス制度が話題となっていますが、その制度に直結する「スマート証憑管理」のデザインですね。
横山:インボイスもそうだけど弥生には会計や給与などいろんなプロダクトがありますよね。私はそれらの製品に横断的に使う部品として画面全体のデザインを考えつつ、コンポーネントを作成しているんです。役割分担をわかりやすく例えるなら私がレゴのブロックそのものを作って、古川さんがそれを使ってゾウとかキリンを作る、といったイメージかと。
―なるほど、わかりやすいです。仕事場の雰囲気はどうですか?
横山:さすが大手ということもありますが、非常にホワイトですね。クリエイターの労働環境ってどうしてもグレーになりがちなんですが、会社の体質として弥生はものすごくちゃんとしています。お休みも自由に取れるし、5年ごとに5日のリフレッシュ休暇があって、同時にお小遣い(※)ももらえるんですよ。
※弥生には「リフレッシュ休暇」という制度があり、休暇と5万円の休暇補助金が支給されます
古川:どうしてもいままでの職場では残業する人が偉いみたいな文化がありました。それが弥生ではまったくないんです。入社したての頃、定時で帰るとやる気ないなと思われるのが嫌で、よくわかんないけど残っていたんです。そうしたら何やってんの帰っていいよって。それまで誰もそんなこと言ってくれなかったのに(笑)。
横山:上司も普通に仕事終われば帰るしね。みんな当たり前のように帰る。19時には誰もいないことあるよね、普通に。
―作業環境などはどうでしょう
横山:そこはいまめちゃくちゃ頑張って改善中です。弥生は歴史が長い企業なので、正直レガシーな手順やツールもあるんですが、ひとつずつ検証と検討を重ねて変えつつあるところ。私たちが所属している新規事業チームが率先して新しいツール導入に向けて動いています。そもそも私たちの部署もできてまだ3年目。その新しさを活かして刷新を図っていきたいなと。
古川:あとは自分の意見や声が通りやすい環境っていえますよね。以前はデザイナーはいなくてエンジニアさんで興味のある人が担当するか、あとは外注だったそうです。この3年で徐々にエンジニアさんがUXデザイナーと協業して作る体制が整ってきたところです。
横山:だから実質、組織立ち上げみたいな募集でもあったんですよ。歴史ある会社の中で新しいことをはじめる。そこも転職するときに気に入ったところでした。社内ベンチャー的に自由闊達にやれるという点ですね。そのマインドはこれからも脈々と受け継いでいきたいですね。
プロダクトを通じて弥生ファンをつくる
―サービスのUXデザインに大切なことってなんでしょうか
古川:やはり一にも二にもユーザーの視点に立って考えることが一番大事ですね。でもそれって頭ではわかっているつもりでも、同じ画面を見てずっと作業していると麻痺してくるんです。いわゆる“中の人”になってしまう。あらためて他の人に見てもらうと「これ初見で全然わからなかった」なんてフィードバックを受けることもあります。
横山:どこまで徹底的にユーザーになりきれるか、の戦いだよね。
古川:だから第三者の意見には素直に耳を傾けることがなにより大切です。なるほどそうかと聞き入れて、確かにそうだなあって自分自身腹落ちさせる。そもそもデザインには正解がありませんからね。常に柔軟に考えてもっと使いやすく、もっと見やすい見せ方があるんじゃないかと追求し続けること。
横山:私の担当領域はユーザーが実際に触るものなんですが、ユーザーにとってやさしいもの、フレンドリーなものというのは絶対にあるんですよね。今回作ったライブラリの中でいうとカラーパレットなんかは色覚に特性ある人でもハッキリ視認できるように工夫しました。色相をコンフリクトしないようにしたり、階調も背景に紛れて見えなくならないよう細かく設定したり。ボタンも押せるかな、と疑問を持たずに押せるように。
―さっきレゴブロックって言ってましたが、まさにですね。
横山:そうですね、子供でも持ちやすい、組み立てやすいというのと同じ思想ですね。いずれは会計でも給与計算でも、どの製品を使っても同じクオリティのユーザー体験を提供することで「弥生って使いやすいね」と弥生のファンを増やしていくことが大きなミッションだと認識しています。
―この先、トライしていきたいことはなんでしょうか?
横山:プロダクトとしてはもはや最近はリリースがスタートで。そこからユーザーにいっぱい使っていただいて、どんどん改善してよりよい商品にしていくという潮流なのでそれに準じていきたいですね。リリースしたときに最高だったものが年が経つにつれ最高じゃなくなっていくわけですし。
古川:これが最良だ、っていまは言えるかもしれないけど、一年後二年後みたらなんでこうしたんだ?みたいなこともあるしね。Webの流行りもあるし、デバイスの潮流にも影響されるし。
横山:そうそう、いまはスマホだけどそのうちメガネとか、どんどんウェアラブルになっていくだろうし。その時々の最適解を更新し続けていくのが私たちの仕事だよね。ユーザーの声も本当の本音まで深掘りしていけば最終的には自分でやりたくない、だったりするじゃない。もしかしたらAIが全部やってくれるよとか、ソフトにマイナンバーカードを紐づけたら全部できるとか、そういう時代も来るかもしれません。
古川:製品のブラッシュアップだけでなくて、本当にそのプロダクトのあり方でいいのか、ってところから問い詰めていかないと。そういう意味でも終わりはないでしょうね。終わりなき改善こそがこの仕事の本質であり、醍醐味であると。そのことをキャリアで悩んでいた頃の私に教えてあげたいです(笑)。
―おふたりとも、ありがとうございました!
取材・編集:早川博通( @hakutsu)
撮影:小野千明
古川明子/横山尚子
古川明子(画像左)
大学卒業後、一般事務として就職するも自身のやりたいことや将来性を考えWebデザイナーへの転身を決意。専門学校に通いながら技術を身に着け、インハウスクリエイターとして再スタートを切る。その後、複数の事業会社でキャリアを積み、2019年12月より弥生株式会社にジョイン。さまざまなプロダクトのサービスにおけるUIUXデザインを手掛けている。
横山尚子(画像右)
大学の映像学部に進学するもWebの可能性に目覚め、専門学校に再入学。大手ゲーム会社でキャリアのスタートを切る。その後、制作会社でWebのみならずグラフィックにまでスキルの幅を広げ、2019年11月より弥生株式会社にジョイン。現在開発本部UXチームにて製品のデザイン全般を手掛けている。