修正のディレクション術:クリエイターと修正依頼
クリエイターの仕事の辛さは、文字通り「生みの苦しみ」をたくさん味わうことにあるでしょう。
生み出す過程での苦しみとも言えるかもしれません。また、仕事としてのクリエイティブは完全なる作品とはなり得ません。目標や目的が複数ある場合は、あらゆる要素を考慮して、妥協点をどこに持っていくか、その妥協点にたどり着く際の苦しみもあるでしょう。
そこで、今回は、クリエイターの仕事の辛さとして、「修正依頼」をテーマに掘り下げていきたいと思います。
たかが修正と思っているディクレタ―やプロジェクトマネージャーがいるとすれば、彼らは仕事で重大な過ちを犯し続けているかもしれません。
むしろ、修正依頼は、クリエイターに仕事を振るディレクションスキルの非常に重要な要素とも言えるでしょう。
修正地獄と脳科学
クリエイターにつきものなのが「修正」。一発オッケーが出た時と、修正が積み重なった時の仕事のモチベーションや辛さはかなり変わってきますよね。
でも、勤め人であれば、決められた時間で、「クリエイティブ作業を続ける」といった意味では、修正が増えても、増えなくても、いずれ何かの「クリエイティブ作業を続ける」ことをするわけです。
修正依頼が入ると、脳の「自己保存」の癖が働き、「どうせまた目標が変わるかもしれない」「今度の目標は達成できるのだろうか?」という気持ちが生まれ、物事に全力投球できなくなります。
目標を達成することで自己効力感が高まり、一つ一つの仕事は「辛さ」よりも「楽しさ」を感じようと主体的になることができます。
しかしながら、修正を繰り返すことは、「達成しない」という経験を積み重ねることになります。小さな修正であっても、修正依頼の度に、脳には自己保存の癖が働き、モチベーションを下げるジャブを打っているのです。
ディレクターやプロジェクトマネージャーは、修正依頼をするときは、「気付いたらその都度言う」のではなく、「一度にきちんと伝える」ことが大事です。もっと言えば、言葉ではポジティブにクリエイティブな側面を褒め、仕事ぶりを称えつつ、ただ、これだけの修正があれば、あとは完璧だから、あと一息、私もバックアップするから、一緒に頑張ってくれないか?と頼み、修正内容をまとめたファイルを渡す方が良いかもしれません。
修正ファイルは、ぎっしりと修正が詰まった雰囲気を出さないものや、冷たさを感じる文言を避けるべきでしょう。
そして、修正を伝達する際は、ある程度の「達成感」をクリエイターに植え付けて、自己保存の癖をケアする必要があります。
もしくは、感謝を表明することで、返報性を高めて、仕事をよりしたくなる方向へ持っていくのも良いでしょう。こうした仕事を行う者同士が返報性の高い関係を築くと、「チームのために」という連帯感が生まれていきます。
修正依頼に対する好意的な承諾率を2倍以上にする方法
行動科学者のA・グランドとF・ジーノが行った感謝に対する実験では、電子メールの最後に感謝の気持ちを伝えた短文を入れた場合と入れない場合では、新しい依頼に対する承諾率が2倍以上高くなりました。しかも、メールの送信者以外の他人からの依頼の承諾率も2倍以上高くなりました。
感謝を示す返報性の高い関係性は、自己保存を打ち消し、自己効力感を植え付け、「チームのために仕事をする」というプロセスへの愛着を植え付けます。ちょっとしたことですが、ディレクションの影響は絶大なのです。
この修正をクリエイターに投げることへの影響力を分かっていない方は多いでしょう。だからこそ、クリエイターの仕事の辛さは理解されません。また、仕事を頼む立場の方々は、実際に作ることにチャレンジしたわけではなければ、「作り上げることへの労力」と「修正することの労力」を知りません。
気軽に新しいアイデアに走らずに、まずは完遂する、「一気の完遂感」を味わうことが、脳の自己報酬神経群の働きを高めます。
ディレクターやプロジェクトマネージャーで、やたらに短期間で多数の修正を入れている方は、クリエイターを「常に半分だけ様子を見ながら仕事をやる人間」に変えてしまっているかもしれません。
もしくは、修正は絶対にあるものだとあまりにも考え、最初から一気に突っ切る気持ちがないかもしれません。スロースターターで、最初は曖昧なところから、どんどん具体化するような形を取ると、最初に明確な目標を確認できずに、自己報酬神経群を活性化させることもできなくなります。
修正指示は明確に、でも、主体性を持たせる
こうした脳の働きを考えると、「修正が多く」なおかつ「修正指示が曖昧」であれば、「ある程度好きにやってくれていいから」と言われても、「常に半分だけ様子を見ながら仕事をやる」ような脳になってしまうので、むしろ、指示をばっちりと作り、あと何回で修正依頼が確実になくなるのかを伝える必要があります。
自己報酬神経群は、「自分からやる」という主体性を持つことでしか機能しません。だから、修正指示はザックリの方が良いと考えるかもしれませんが、修正指示はなるべく具体的にしていく必要があります。なぜなら、終わりが明確に見えるからです。そして、その明確な修正指示のもと、そのクリエイターが主体的になれる要素を探し、その要素の中においては、自由にやってくれて構わないし、自由にやることを期待していると、伝えましょう。
仕事は「達成すること」よりも、「どのように達成するか」を追求した方が、脳のパフォーマンスは高まります。結果の点を考えるより、プロセスの線を目標にする方が、持てる才能を最大限に発揮できます。
明確化して、最初から全力で走り切る、そして、「絶対に修正はゼロで終わる」という綺麗事を捨てずに、仕事に挑む。あまり現実味のない目標を設定すると、脳が自己保存に走って、「無理だ」という気落ちが生まれてしまいますが、それでも、目標は高めで突っ切るのが良いでしょう。
修正を伝えることに関して、そこまで深く考えていなかったディレクターやプロジェクトマネージャーは、ぜひ、この機会に、普段の自分の修正依頼の行動体質を俯瞰し、改善へ取り組んでいくことで、さらに一皮も二皮もむけて、さらに高いキャリアへ羽ばたいていくでしょう。
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