誘いを寄せる役割を担うのが「おとり」です。おとりは、自然に馴染ませ、相手におとりと悟られないからこそ、その強い役割を発揮します。
そして、行動経済学には、おとりを使うことの「おとり効果」と呼ばれる法則があります。
今回は、おとり効果を深く掘り下げ、おとりを上手に使った方法を解説していきます。
おとり効果とは
おとりを含めることで、意思決定力を高める効果
おとり効果とは、見劣り・劣悪な選択肢を一つ加えることで、別の選択肢が選ばれることを強める効果を指します。
例えば、デザイン案をA案の身を見せて、それを気に入ってもらい案が通るかは正直なところ難しさがあるかもしれません。
しかし、A案とは同質のクライアントの意向に独自の見解とアレンジを加えたB案、A案とB案よりも明らかに低品質なC案を出すことで、A案が選ばれる可能性は高まります。もしくはB案が選ばれます。
顧客は何かしらを決定してくれるため、プロジェクトがスムーズに進むわけです。
おとり効果と行動経済学
マサチューセッツ工科大学のアリエリー博士らの実験
おとりを含めることで、意思決定力を高める効果
経営学専攻の学生に英経済誌『エコノミスト』を定期購読に対して、選択肢が以下のような2個の選択肢を与えました。
(1)ウェブのみ購読 $59
(2)冊子&ウェブ購読 $125
結果:(2)を選択した学生 32%
このケースでは(2)の選択をした学生は32%に及びました。しかし、以下の3つの選択肢を与えると、(2)を選んだ学生は、なんと84%に及びました。
(1)ウェブのみ購読 $59
(2)冊子のみ購読 $125
(3)冊子&ウェブ購読 $125
結果:(2)を選択した学生 84%
この場合、かなり単純なおとりであり、(3)のお得感が強調されていますよね。それでも、結果的には2つの選択肢を与えた場合より、高いプランを選んだ割合が50%も増えているわけです。
おとり効果の例
お弁当の場合
300円の弁当より、500円の弁当を売りたい場合に、高額なプレミアム弁当を900円で売ることにより、中間の500円の弁当がより売れるというケースがあります。
特に初めての顧客は、「その店のスタンダード=中位の価格のもの」と認識しやすくなります。また、「安過ぎるのを買うのも…」という心理が働く人もいるでしょう。
クリエイティブ業界の場合
デザイン制作の現場などでは、案を複数提出し、クライアントが納得するデザインが決まらなければ、本格的な制作になかなか進みません。
そこで、捨て案を用意することで、力を入れて作った案をスムーズに通すという作戦があります。また、こちらの独自の見解や提案で、クライアントの移行に沿った案と同程度のクオリティを用意し、3案を提出するということもあります。
恋愛の場合
おとりとなる人を同席させることで、自分の魅力を引き立て、自分が選ばれるように仕向けるのも立派なおとり効果と言えます。
単純に自分より外見が劣っている人を同席させれば、自分が際立つということに留まらず、敢えてかなり外見の素敵な人を用意することで、現実的な魅力のラインで自分が選択されるということもあります。
また、外見はあくまで魅力の一つであり、対人関係においては、目の前の相手が異性に対して何を魅力とするからをしっかり理解し、その点に対して、おとり効果を用いる必要があるため、なかなか恋愛で応用できる人は少ないのではないかと感じています。
おとり効果のポイント
ポイント1:選択肢は3~5つ程度
選択肢が多過ぎると、今度は「決定回避の法則」が働き、決定を避けてしまいます。それは、プランやオプションが多いと、考慮するべきことが増え、適切な判断に対する脳の負担が大きくなるからです。
その結果、「とりあえず今日は保留で」「あとで詳しく調べてから」といった行動を促すことになります。
ポイント2:価格は5:3:2
真ん中を選ぶ心理は、極端の回避性とも呼ばれます。中間は平均である印象を作りますよね。1つや2つを選ばせるよりも、3つ以上にすることで、中間が出来上がることも、おとり効果の本質の一つと言えます。
そして、価格は商品が3つの場合は、プレミアム:スタンダード:お得=5:3:2にすると良いと言われています。
ポイント3:顧客が自分のゾーンを明確に把握できるようにする
選択肢をゾーンという言葉で理解すると、良い選択内容と価格設定を作ることができます。顧客が選択肢を見たときに、「うん、私だったら、このゾーンだよね!」とスムーズに自認できると、顧客は意思決定の背中を押されるわけです。
選択肢と価格帯を決める際に、どの顧客層なら、ゾーンに快くハマってくれるのかをイメージしていくと良いでしょう。
最後に:良いおとりを作り出せるようになろう
おとりを作り、見せ方を変えれば、相手の動きは変わる
以上、おとり効果について掘り下げて解説してきました。
意思決定の際に、単に「決定させたい1つの内容」について強く打ち出すのではなく、選択肢を設けるだけで、相手のリアクションは大きく変わります。
これは、会社のコミュニケーションでも同じです。自分について語る際も、自分の事だけでなく、ダシとなる比較対象の人物を取り上げて、自分への理解を深めるほうが、相手は魅力的に映るかもしれません。
上司への交渉の際も、自分の事情だけでなく、他の社員の事情を持ち出すことにより、こちらの事情を通すことができるかもしれません。
プレゼンテーションの際も、他者比較で、自社の立ち位置を上手に見せることもできます。
おとり効果は、ECサイトやランディングページでのセルース、もしくは提案営業などでは、かなり有用に使えることが理解できたと思います。
おとりを作るスキルを磨き、おとりの出し引きが上手になれば、これから行うあらゆる仕事の成果がより高くなっていくでしょう。ぜひ、今回の記事も参考にしてみてください。