弁護士に聞く、景品表示法のアウトライン-表示規制の概要-(クリエイター・マーケターのための広告法務入門②)
前回は、広告・マーケティング法務に詳しい五常総合法律事務所の持田大輔弁護士に、「 最近の炎上事例の特徴とクリエイターやマーケターに求められる注意点 」について、話を伺いました。
今回は、引き続き、広告やマーケティング業務において、避けては通れない景品表示法について、表示に関する規制にスポットを当てて、クリエイターやマーケターの方でも知っておきたいアウトライン、さらには最近のトピックを伺います。
景品表示法については、ルールが複雑で苦手意識を持っている方も多いと思いますので、これを機会に基本的な事項について、一緒に確認していければと思います。
-まず、景品表示法とは、そもそもどのような法律なのでしょうか?
正式には、「不当景品類及び不当表示防止法」といいます。堅苦しい名前ですが、この名が示すとおり、不当に高額な景品(おまけなど)と、不当な表示(広告など)について、規制をしている法律です。
-おまけと広告では、ずいぶん違う気もします。どうして同じ法律で規制されているのでしょうか?
たしかに、最初は少し疑問を感じられる方もいらっしゃいますが、不当な景品も表示も、無制限に許してしまうと、商品やサービスを購入する際の消費者の判断を歪めてしまう点で共通します。そのため、一つの法律で規制されています。
-なるほど。景品表示法と聞くと、広告に関する規制を思い浮かべてしまいがちです。景品に関する規制も重要なのでしょうか?
最近ですと、いわゆるペイメントサービスにおいて、各社が100億円を越える規模の大型キャンペーンを実施し、熾烈なキャンペーン競争が行われていると話題になりましたが、顧客に対し、何らかの経済的利益を付与するキャンペーンを行う際には、表示規制はもちろん、景品規制についても、チェックをすることが必要です。
その他、キャンペーンとは異なりますが、たとえば、最近、ゲーム業界を中心に盛り上がりを見せているeスポーツ大会において、参加者への賞金授与について景品規制との関係が議論されたりしています。
消費者庁から措置命令を受けている事例のほとんどは、不当表示に関するものですが、企業がマーケティング戦略を考えるうえでは、景品規制についても、しっかりとフォローしておくことが大切です。
-たしかに、最近ではいわゆるクリティカルマスを取りに行くためのマーケティング戦略の重要性が強調されていて、その有力な手段として、キャッシュバックやギフト券のプレゼントなどユーザーに経済的利益を付与するキャンペーンが盛んに行われています。そういった際に、景品表示法が関係してくるわけですね。
それでは、表示に関する規制について、概要を教えていただけますか。
まず、表示規制のアウトラインから見ていくことにしましょう。
表示規制は、大きく、①優良誤認、②有利誤認、③指定告示に基づく不当表示の3つの類型に分かれます。
③の指定告示に基づく不当表示は、やや細かいので割愛し、今回は①優良誤認と②有利誤認について見ていくことにしましょう。
まず、①優良誤認とは商品やサービスの品質、規格その他の内容についての不当表示をいい、②有利誤認とは商品やサービスの価格その他取引条件についての不当表示をいいます。
概念的には、①優良誤認は内容についての不当表示、②有利誤認は取引条件についての不当表示と分けられるのですが、実際の処分事例を見てみると、いずれに該当するのか、判断に迷う例も多い印象です。
なお、優良誤認については、不実証広告規制といって、消費者庁が事業者に対し、表示に関する合理的な根拠を示す資料の提出を求めた場合に、期限(15日以内)までに合理的な根拠を示す資料を提出できないと、その表示は不当表示とみなされる制度があります。
合理的な根拠を示す資料として認められるためには、①提出資料が客観的に実証された内容のものであること、それから、②表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していることの2つが求められます。
レピュテーションリスクを避ける観点からは、資料の提出を求められた場合に備え、事前にしっかりと準備しておくことが大切です。
-大きくは、①優良誤認は内容の不当表示、②有利誤認は取引条件の不当表示と整理できるのですね。
表示規制のポイントや注意点としては、どういった点が挙げられるのでしょうか?
優良誤認も有利誤認も、一言でいえば、「事実と異なる嘘の表示をしない」ということに尽きます。
その際、ポイントは2つあって、1つは、「表示」について、およそ事業者が顧客を誘引する際に利用するものはすべて含まれると考えられていることです。
実際、過去の処分事例では、インターネット上で配信をしていた動画中の発言内容について、表示(優良誤認及び有利誤認)にあたるとしたうえで、措置命令を発令したケースもあります。
表示ではないという理由で表示規制の適用を免れることができる場合は、ほとんどないと思っておいて良いでしょう。
-インターネット上の配信動画も「表示」に含まれるわけですね。もう1つのポイントは、どういったものでしょうか?
もう1つは、表示が事実と異なっていないか、表示の意味を考える際、一般消費者の立場に立って、一部ではなく表示全体を見たときに、どのような意味に受け取るかを冷静に考える必要がある点です。
事業者としては、どうしても特定の文書やイラスト、写真等から受ける印象を重視してしまったり、あるいは、商品やサービスについて、自分たちが知っている内容に寄せて解釈をしてしまいがちで、ここに落とし穴があります。
表示の内容は、表示全体から一般消費者が受ける印象が基準となりますし、消費者は、通常、商品やサービスについては知らず、まずは表示だけを見ることになります。
最近では、消費者庁において表示の意味が事業者にとって不利に拡張して解釈される傾向があるとの指摘もなされています。
表示全体から消費者はどのような意味に受け取るのか、当該商品やサービスを知らない他の部署の人にも見てもらい、率直な意見を聞くなど、慎重に判断する必要があります。
-あくまで消費者の立場に立って、広告の内容と実際の商品やサービスの内容とが違っていないか、丁寧に確認する必要があるわけですね。
表示規制について、よく問題となる点や最近のトピックとしては、どのようなものがあるのでしょうか?
よくご相談をいただく問題としては、たとえば、価格の安さを強調するため「通常価格2,000円のところ、今日だけ1,000円」と表示する二重価格表示や同業他社の商品と自社商品とを比べる比較広告があります。
どちらも一律に禁止されているわけではありませんが、消費者庁からガイドラインが示されており、内容次第では不当表示に該当する場合があります。
また、最近のトピックとしては、いわゆる打消し表示の問題があげられます。
断定的な表現などを使い、商品やサービスの内容・取引条件を強調する表示(強調表示)は、事実に反するものでない限り、問題となるものではありません。
ただ、強調表示は、対象商品・サービスのすべてについて、無条件・無制約に当てはまるものとして一般消費者に受け止められるため、例外があるときには、その旨の表示(打消し表示)を分かりやすく、適切に行う必要があります。
打消し表示についても、消費者庁から「
打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点
」が公表されていることから、打消し表示を行う際には、同資料の内容を踏まえ、適切に対応をする必要があります。
-以前は、「全品5割引き」などと大きく表示しながら、注意して見ないと分からない場所に「一部除外品があります」と表示されているケースが沢山ありましたが、現在では、消費者庁のガイドラインを踏まえて、適切に打消し表示を行う必要があるわけですね。
そのほか、たとえば、いわゆるステマ(ステルスマーケティング)については、どのように考えられているのでしょうか?
ステマの問題については最近も話題になりましたね。消費者庁は、2012年5月に「
インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項
」を改正し、一定の場合には、口コミサイトのやらせ(ステマ)が不当表示になり得ることを明らかにしています。
また、ステマ問題の本質は、客観的かつ中立的な情報を装いながら、実は事業者の意図する主観的な情報を提供する、そして、その表示が中立的な第三者の意見であるかのように誤認されてしまう点にあります。
現在、ステルスマーケティングではあるものの、優良誤認や有利誤認に該当しない場合については、景品表示法では対応ができないことから、日本弁護士連合会より本質を踏まえた法整備の必要性が指摘されています。
-なるほど。今のお話は、単純にステマの問題だけではなく、いわゆる広告記事等にも関係する話だと思いました。要は、消費者を騙す行為、あるいは騙していると受け止められる行為というのは、事業者として行うべきではないわけですね。
今後、広告や表示に関するコンプライアンスについては、どのようになっていくとお考えですか?
平成28年4月から不当表示に対する課徴金制度が施行されました。これは、先程説明した優良誤認表示、または有利誤認表示を行った事業者に対し、対象期間における商品・サービス(役務)の売上額の3%の課徴金を課す制度で、すでに1億円を越える納付命令が出されている事案もあります。
また、指定告示違反を除く不当表示については、適格消費者団体から差止めの請求をすることが認められており、消費者団体が実質勝訴したと言える事案も出てきています。
今後、広告や表示に関するコンプライアンスについて、ますます重要になっていくことが予想されますが、その一方で、前回もお話したとおり、過度に委縮される必要はないと思います。
大切なのは、判断に迷った際には、常に消費者の目線に立って考えることです。自分が消費者の立場だったらどう思うか、そのことを頭の片隅に入れながら、自社の商品やサービスの魅力を存分に伝えるにはどうすれば良いか、知恵を出し合いながら、マーケティング戦略を練っていただければと思いますし、どうしても判断に迷う場合には、顧問弁護士や外部の弁護士に意見を求めることも有益だと思います。ちょっとした表現の工夫でリスクを回避できることも実務的にはたくさんあるので。
-企業には、文字通り、ユーザー・ファーストの姿勢が求められているわけですね。最新のトピックを含め、現場で問題となるテーマがいくつもあったように思います。
次回は、景品規制について伺います。
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持田 大輔
早稲田大学法学部、同大学院法務研究科修了。早稲田大学法学学術院助手を経て現職。
会社役員に対する法的助言から、不祥事対応、広告・マーケティング法務、データ戦略まで企業法務全般を取り扱うとともに、ゲーム制作会社の社外役員や映画『七つの会議』の法律監修なども手掛ける。