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弁護士に聞く、他の人のテキストなどを適法に「引用」する際の注意点とは?
INTERVIEW 2019.3.08

弁護士に聞く、他の人のテキストなどを適法に「引用」する際の注意点とは?

五常総合法律事務所 弁護士 数藤 雅彦

前回の記事では、デジタルコンテンツと著作権法に詳しい五常総合法律事務所の弁護士・数藤雅彦氏に、「 デザイナーがWebサイトや広告でフリー素材を利用する際の注意点」を伺いました。今回は、同氏にデザイナーやライターがWebサイトや広告で他の人のテキストや画像を「引用」する際の注意点について伺いました。

―今回は、「引用」について教えてください。STASEONの登録クリエイターさんからこんな質問が寄せられました。

サイトを作るときに、他の人が書いた10行くらいのテキストを引用したいのですが、出典を書いておけば、わざわざ許可をとらなくてもいいですか。


数藤:これもよくある誤解ですね。そもそも前提として、テキストによっては著作権がなかったり、保護期間が終わってパブリックドメインになったものもあります。そのため、正式にアドバイスをするなら、使おうとしているテキストなどについて詳しくヒアリングする必要がありますが、今回は引用がテーマということで、そこは省きましょう。まず一般論で言いますと、「出典さえ書けばそれだけで適法な引用になる」というのは法的には間違いです。

―間違いなんですね。もう少し、詳しく教えてもらえますか?

数藤:「引用」については誤解が多いので、最初に法律がどうなっているかを見ておきましょう。著作権法では、一定の条件を満たせば、適法な「引用」として、権利者の許可(許諾)がなくても著作物を利用することができます。

著作権法32条1項
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

―公正な慣行? 正当な範囲内? よくわかりません・・。

数藤:そうですね。何文字以下なら切り取ってもセーフとか、何ピクセル以下なら転載しても大丈夫といった、わかりやすい数字の基準はありません。条文には解釈がつきもので、たとえば文化庁は、裁判例の考え方などをふまえて次の4つの条件に整理しています。法律家の中でもこのように考える人は多いかと思います。

適法な引用の条件(文化庁バージョン)

①すでに公表されている著作物であること
②「公正な慣行」に合致すること
例えば、
・引用する「 必然性」があることや
・カギカッコなどを使って「 引用部分」が明確であること(言語の著作物の場合)
③報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
例えば、
・引用部分とそれ以外の部分の「 主従関係」が明確であることや
・引用される分量が 必要最小限度の範囲内であること
④「出所の明示」が必要(複製する場合以外は慣行があるとき)
※文化庁「著作権テキスト(平成30年5月版)」を参考に整理
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/kyozai.html

―②のカギカッコはわかりますが、③の主従関係というのは何でしょうか。

数藤:たとえば、論文で引用する場合で考えてみますと、他の人の文章を引いてくる場合に、自分の文章が内容的にも分量的にもメイン(主)で、他の方のテキストがサブ(従)ということですね。

―なるほど。でもどれくらいならセーフなのか、実際の作業の現場では、判断に困ることも多そうですね・・。

数藤:どこまでなら許されるのかは、最終的にはケースバイケースで決まるので、「ここまでならセーフ」という線引きはなかなか断言しづらいですね。イメージを持っていただくために、ひとつ例をあげましょう。最近のわかりやすいケースとして、「京大式辞事件」がありました。

―どんな事件ですか?

数藤:今から2年前の2017年4月に、京都大学の入学式の式辞で、ロックミュージシャンのボブ・ディランの歌詞を引いてホームページにアップしたところ、これが適法な「引用」なのか議論になったケースです。

―ああ、ネットのニュースで見た記憶があります。

数藤:私もボブ・ディランが好きなので、この事件は気になってフォローしていました。まず前提から確認しておきますと、入学式の式辞で歌詞を読み上げたこと自体は、適法だと考えられています。著作権法では、非営利目的で歌詞などを口述する場合には著作権が及ばないためです(38条1項)。

―なるほど。

数藤:問題になったのは、あとで式辞のテキストを京大のホームページから配信したときに、歌詞も含まれていたことです。これは、形式的にみると公衆送信権(著作物をネット配信できる権利)に触れうる行為なので、JASRACなどの管理機関を通して権利者に使用料を払うか、または「引用」などの適法になる条件を満たした上で使うことになります。ただ、このケースでは、JASRACも適法な「引用」だと判断したようです( 参照、産経ニュース2017年5月24日付記事

―式辞ではどんな風に歌詞が読まれたのですか?

数藤:式辞の全文は、 京都大学のウェブサイトで読めます。今回は私も、式辞を「引用」しながら紹介してみましょう。総長は、最初に新入生へのお祝いを述べ、京大は「常識にとらわれない、自由な学風の学問の都であり続けなければなりません。」と語っています。そこから京大の構想に触れて、このように続けました。

 さて、では常識にとらわれない自由な発想とはどういうことを言うのでしょうか。私が高校生だった1960年代に流行った歌があります。昨年ノーベル文学賞を受賞したボブディランの、

How many roads must a man walk down
Before you call him a man?
人間として認められるのに、人はいったいどれだけ歩めばいいの?

という問いで始まる歌です。そして、


How many ears must one man have
Before he can hear people cry?


このように、総長はボブ・ディランの原詞を挙げて、和訳を添えながら、歌詞のほとんどすべてを読み上げています。

友よ、答えは風に吹かれている

という言葉で終わるのです。

 これはボブディランが21歳のときに作った歌で、「答えは風に吹かれている」というのは、「答えは本にも載っていないし、テレビの知識人の討論でも得られない。風の中にあって、それが地上に落ちてきても、誰もつかもうとしないから、また飛んでいってしまう」という気持ちを表したものなのです。彼はこうも歌います。

How many times can a man turn his head
And pretend that he just doesn’t see?

 そう、この歌は、誤りを知っていながら、その誤りから目をそらす人を強く非難しているのです。これは、1960年代に起こったアメリカの公民権運動の賛歌で、日本でも多くの若者が口ずさんだものです。

―「ボブ・ディランが21歳のときに作った歌」、「日本でも多くの若者が口ずさんだ」とわざわざ言及しているのは、20歳前後の新入生へのメッセージなのでしょうか。

数藤:その可能性はありますね。そして、「大学には、答えのまだない問いが満ちています。」「常識にとらわれない発想とは、これまで当たり前と思われてきた考えに疑いを抱いたとき、それに目をそらさず、真実を追究しようとする態度から生まれます。」などと続けて、過去に京大が発表した、新しい発見や独創的な考えを紹介しています。式辞のラストでは、歌詞の引用元も記載されています。

皆さんが京都大学で対話を駆使しながら多くの学友たちとつながり、未知の世界に遊び、楽しまれることを願ってやみません。

ご入学、誠におめでとうざいます。

(“ ”は、Bob Dylan氏の「blowin’ in the Wind」より引用)

―いい式辞ですね。これは聞き入ってしまいそうです。

数藤:名曲をうまく取り込んだスピーチですよね。もっとも、見ようによってはボブ・ディランの歌詞の大半を使っているので、これが適法な「引用」といえるのかが問題になります。先ほど挙げた、文化庁の要件をふまえて整理してみましょう。

①すでに公表されている著作物であること
  →〇(ボブ・ディランの歌詞はすでに公表ずみ)
②「公正な慣行」に合致すること
例えば、
・引用する「必然性」があることや
  →〇(常識にとらわれない自由な発想等について説明する文脈上、必然性あり)
・カギカッコなどを使って「引用部分」が明確であること(言語の著作物の場合)
  →〇(改行とカッコによって歌詞の部分が明確)
③報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること
例えば、
・引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であることや
  →〇(全体をみると、式辞の本文が内容・分量ともに主で、歌詞は従)
・引用される分量が必要最小限度の範囲内であること
  →〇(説明に即して歌詞の必要な箇所を都度引いており、分量が必要最小限度
④「出所の明示」が必要(複製する場合以外は慣行があるとき)
  →〇(式辞の中と末尾で、作詞家であるボブ・ディランの名前と曲名表記あり)


いかがでしょう。私は、①から④の条件をすべて満たしているので、適法な「引用」だと言ってよいかと思います。

―なるほど。最初の質問に戻りますと、たしかに出所の明示は④の条件を満たしていますが、他にも①から③の条件も必要ということですね。

数藤:そうですね。テキストでも画像でも、無節操に使えるわけではありません。今ではネット上のコンテンツは何でも簡単にコピペできてしまいますが、法律上の「引用」はそう簡単ではありません。デザイナーの方は十分に気をつけてください。

―たしかに、そんなことをしたら、法律だけでなく、マナー上も問題になりそうですね。

数藤:最後に、どうして冒頭の質問が寄せられたのか、その背景にも一言ふれておきましょう。理由としてはやはり、ネット上で毎日のように、大量のテキストや画像が無断でアップロードされているのを見ているからでしょうね。法律を知らずにネットだけ見ていると、「出典さえ示しておけば大丈夫」という誤解が生まれてしまうのも仕方ないところがあります。そもそも、いまの著作権法のベースは約50年前に作られたもので、もちろん当時はインターネットなんてありません。技術の進歩に応じて法改正を繰り返してはいますが、感覚的に今の世の中に合っていないところもたくさんあります。

―そんなに昔の法律なんですね。

数藤:とはいえ、クリエイターの方においては、著作権法を知らなかったでは通らないでしょう。著作権のあるテキストや画像を無断でアップロードしたら、原則としては違法になるのであって、今回お話した「引用」のような法律の要件をきちんと満たした場合にだけ適法になるというのが法律の仕組みです。実際、ご自身のデザインやテキストも他人に無断で使われてしまったら、あまりいい気がしないかと思います。まずは法律の仕組みをしっかり念頭に置かれたうえで、いいデザインを作り上げてください。

―今回は引用について詳しく教えていただき、ありがとうございました。

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五常総合法律事務所 弁護士

数藤 雅彦

東京大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。
ウェブサービスや映像、デザイン、アートに関する法的アドバイス、契約サポート等を広く取り扱う。大学・企業等での著作権の講演やレクチャも多数実施。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会副委員長
筑波大学法科大学院非常勤講師
著作権法学会、デジタルアーカイブ学会会員

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