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弁護士に聞く、最近の炎上事例の特徴とクリエイターやマーケターに求められる注意点(クリエイター・マーケターのための広告法務入門①)
INTERVIEW 2019.9.13

弁護士に聞く、最近の炎上事例の特徴とクリエイターやマーケターに求められる注意点(クリエイター・マーケターのための広告法務入門①)

五常総合法律事務所 弁護士 持田 大輔

時間をかけて制作した新商品やサービスのPR・プロモーションがSNSの炎上を理由に中止に追い込まれてしまう、最近、そういった事例を目にすることが増えてきています。

それでは、PRやプロモーションの作り手としては、どのような点に注意することが求められているのでしょうか。

今回は、最近の炎上事例の特徴とクリエイターやマーケターに求められる注意点について、五常総合法律事務所の持田大輔弁護士に話を伺いました。

求められる多様な価値観や生き方などへの配慮

多くの国籍の女性たち

-最近、新商品やサービスに関するプロモーションがネットで炎上してしまい、リリース直後に中止になってしまった例が目につきます。

今年に入ってからも、いくつか炎上してしまった事例がありましたね。

-最近の炎上事例の特徴としては、どのようなものがあるのでしょうか?

炎上した原因については、様々な分析がなされていますが、一つの特徴としては、多様な価値観や生き方などへの適切な配慮が求められている点が挙げられると思います。

-価値観や生き方などへの配慮とは、もう少し具体的に言うとどういうことでしょうか?

最近の炎上事例を見ていると、もちろん、景品表示法などの法律に違反して炎上してしまった例もありますが、必ずしも法律には違反していないものの、PRやプロモーションの内容から炎上してしまっている例も見受けられます。

たとえば、ある炎上事例では、ジェンダーロールについて、子育てや家事は女性がするものだというステレオタイプな考えを押し付けているとして炎上してしまいました。

また、別の事例では、表向きには仲良さそうな女性たちが、裏では互いに足を引っ張っている、女性の闇に触れた内容が「女性を揶揄している」、「女性は陰湿だという考えが透けて見える」と炎上した例もあります。

-なるほど、法律に違反した場合だけではなく、法律には違反していないものの、内容に問題があり炎上してしまう例があるわけですね。

先程は、一例として、女性蔑視、ジェンダーを理由に炎上してしまった例を挙げましたが、他にも細かく見ていくと、LGBTや人種(肌の色)などを理由に炎上している例も見受けられます。

また、企業の側からすれば、パロディ(風刺)やユーモアのつもりが、上手く伝わらずに炎上してしまった例や、競合他社の商品やサービスを暗に批判したり、貶める内容について「品位がない」と炎上した例も見受けられます。

-そうすると、PRの作り手やマーケティングの担い手としては、法律を守るだけではなく、今、お話された様々な点にも気を配る必要があるわけですね。

法律を守ることは当然の前提として、もう少し広い視点から社会規範や倫理、さらには品位といった点についても、しっかりと意識して配慮することが求められていると思います。

背景にあるSNSの普及と求められるリテラシー

多くの人たちがスマホを操作している

-これらの配慮が求められるようになった背景としては、どのような理由が考えられるのでしょうか?

一番大きいのはインターネット、特にソーシャルネットワークサービス(SNS)だと思います。現実の社会では、まだまだ声を上げにくい立場にある人、たとえば、女性やマイノリティーの方でも、ネットの世界でははっきり自分の意見を言えたり、一人でも「これっておかしいのでは?」と問題提起をすることが出来るようになった、このことはSNSの普及が社会にもたらした非常に大きな変化だと思います。

-そういう意味では、PRの作り手やマーケティングの担い手には、先程、お話のあった配慮に加え、インターネット、もっと言えばSNSのリテラシーについても求められるということでしょうか。

そうだと思います。特に、社会規範や倫理、品位といったものについては、抽象的かつ多義的で、どこまでがセーフでどこからがアウトか明確に線引きをすることは難しく、どうしても感覚的な判断にならざるを得ないものだけに、日頃からSNSに触れて、どういう事例が炎上してしまうのか、自分なりの肌感覚を持っておくことが必要かつ有益だと思います。

-リテラシーを身につけることは、まさに「言うは易し、行うは難し」だと思いますが、何かおススメの方法などはありますか?

やはり実際の炎上事例の分析ではないでしょうか。最近、企業のクライアントから、マーケティング担当者向けに、社内セミナーの依頼を受けることが増えていますが、そうした際、参加者の方が一番興味を持たれるのは実際の炎上事例を紹介したり、事例を基にグループディスカッションをする時です。

まずは、ご自身が興味を持った炎上事案であれば何でも良いので、どういう経緯で、なぜ炎上したのかを整理・分析したうえで、どこをどう変えれば炎上しなかったのか、炎上後の対応に問題はなかったかなど、徹底的に検討してみると得るものは多いと思います。

求められるチェックの仕組みと広告ポリシー

男性が街にある数々の広告を見ている

-実際にプロモーションを行う企業としては、どのようなことが求められているのでしょうか?

1つは社内で複眼的にチェックできる仕組みを設けることが求められているといえます。

クリエイターの方が「エッジの利いた広告を作りたい」、「インパクトのある作品を作りたい」と思うのは当然のことですし、大勢の意見を聞けば聞くほど、面白くないものが出来上がってしまうというのも、一般論としては、その通りだと思います。

ただ、その一方で、ひとたび炎上してしまい、プロモーションを打ち切らざるを得なくなると、企業にはプロモーションにかけた費用分の経済的損失が生じますし、レピュテーションやブランド価値も大きく毀損されてしまいます。

このため、企業としては、事前に社内で複眼的にチェックできる仕組みを設けることは必須だと思います。

今回はPRやプロモーションの内容から炎上する例を取り上げましたが、もう1つ、企業の公式アカウントが担当者の投稿により炎上してしまう類型もあります。

この類型では、多くの場合、担当者の悪乗りが原因で炎上が生じるため、公式アカウントの炎上防止の観点からも、投稿前に何らかの形でダブルチェックする仕組みは有益だと思います。

-チェック体制を設ける際の注意点や工夫としては、どのような点があるのでしょうか?

可能であれば、年齢や性別など属性が異なる人による相互チェックが理想だと思います。もっとも、マンパワー的に難しい場合もあると思いますので、そういった時は、顧問弁護士や外部の弁護士に意見を求めることも一つの方法だと思います。

これまでは、法令に違反しないか、リーガルチェックのみを求められることが多かったですが、最近、リーガルチェックに加え、炎上リスクがないか外部の弁護士として意見を求められることも増えてきていますので、判断に迷った時には活用してみると良いと思います。

-顧問弁護士の活用の仕方として、そういった相談をしてみることもあり得るのですね。ほかに注意する点としては、どのような点が挙げられますか?

もう一つは、企業として明確な広告ポリシーを持つことが挙げられます。最近の事例を見ていると、確かに、これは炎上してもやむを得ないと思う事例も見られますが、その一方で、これって本当に企業が謝罪をしたり、自粛をする必要がある広告・プロモーションなのかなと疑問を感じることもあります。

SNSの普及により、企業に多様な価値観や生き方への配慮が求められるようになっているのは、先程お話したとおりですが、ネット上には、炎上自体をある種のエンターテイメントとして楽しんでいるだけの人や、とにかく拡散させたい、PVを稼ぎたいだけの人が一定数いるのも事実です。

企業としては、ネットの意見が、イコール民意(多数の意見)ではないことも頭に入れながら、冷静に対応する必要があり、事前にポリシーを定めたうえで、企画段階から、万が一炎上した時の対応まで、ポリシーに裏付けられた一貫したアクションが求められていると感じています。

-なるほど。一口に「炎上」と言っても、様々なものが含まれており、企業には冷静な対応が求められる、そのためには事前にポリシーを持っておくことが重要ということですね。

データの取得と子ども向け広告の在り方

男の子が本を読んで笑っている

-次に、今後、問題となり得る点としては、どのような点があるのでしょうか?

これは難しい質問で、私自身、確たる答えがあるわけではないですが、現在、私自身が関心を持っていることとして、2点、お話をいたします。

1つは、広告やプロモーションにおけるデータの取扱いです。特にネット広告では、ユーザーに関する様々なデータを取得することが可能で、現に取得されており、これにより精度の高いターゲティング広告が可能です。

もっとも、たとえばユーザーの行動履歴や位置情報等を利用する場合、個人情報保護法やプライバシーとの関係で、慎重な対応・設計が求められます。

今後、プロモーションの内容自体は問題ないものの、データの取得や活用、さらにはプロファイリング等を原因として炎上する事例も増えてくるように感じています。

もう1つは、まったく別の文脈になりますが、子どもを対象とした広告の在り方についてです。2017年に内閣府消費者委員会より「子ども向け広告の在り方について考えるシンポジウム報告書」が公表されています。大人に比べて広告の影響を受けやすい子どもを対象とした広告について、どのような取り組みをすることが望ましいのか。まだまだ議論が始まったばかりのテーマですが、外国では法律で規制している国もあり、今後、我が国の実情を踏まえ、どのような議論がなされていくのか、自主規制の在り方も含め、注目をしています。

-なるほど。データの取扱いや子ども向けの広告といったトピックもあるのですね。先程伺った多様な生き方や価値観への配慮もそうですし、SNSリテラシーの話もそうですが、企業のプロモーション担当者には、なかなか大変な時代になってしまった気がしています。

確かに、企業の担当者の方とお話をしていると、「正解がなくてシンドイ」といった声を聞くこともあります。

しかし、逆に言えば、正解がないからこそ、顧客や社会とのコミュニケーションの中で考え、行動せざるを得ず、そこは大きなやりがいだと思いますし、日々刻刻と変化する動きの早い分野だけに、文字通り担当者の腕が問われる面白い仕事なのだと思います。

今日は炎上のリスク・負の側面を強調して話をしてしまいましたが、本来的には、PR・プロモーションというのは、明確なポリシーを持ったうえで、積極的に仕掛けることで、ダイナミックな仕事ができる分野だと思いますので、是非、炎上リスクに怯まずに、頑張って戴ければと思います。

-確かに、自分が企画したPRやプロモーションが当たった時には、格別の喜びがありますからね。
本日は色々と興味深いお話をありがとうございました。

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五常総合法律事務所 弁護士

持田 大輔

早稲田大学法学部、同大学院法務研究科修了。
早稲田大学法学学術院助手を経て現職。
会社役員に対する法的助言から、不祥事対応、広告・マーケティング法務、データ戦略まで企業法務全般を取り扱うとともに、ゲーム制作会社の社外役員や映画『七つの会議』の法律監修なども手掛ける。

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