弁護士に聞く、デザイナーがWebサイトや広告でフリー素材を利用する際の注意点
現在、日本を含め、世界には様々なフリー素材の配布サイトが存在しています。そして、クライアントワークから自己発信まで、フリー素材を有効活用する動きも日々高まっています。
そこで今回は、デジタルコンテンツと著作権法に詳しい五常総合法律事務所の弁護士・数藤雅彦氏に、Webサイトや広告でフリー素材を利用する際の注意点について伺いました。
特に、フリー素材をよく使うディレクターやデザイナーの方は、今回の記事で、著作権や肖像権などの理解を深めて頂ければと思います。
―今日は、フリー素材を使うときの注意点について教えてください。STASEONの登録クリエイターのWebデザイナーさんから、こんな質問がきています。
企業から依頼をうけて、Webサイトのデザインの仕事をしています。サイトや広告の中でフリー素材(写真やイラスト)を使いたいのですが、ネットで見つけたフリー素材は自由に使っていいんでしょうか?
とのことですが、どうなんでしょうか?
数藤:デザイナーの方からよくいただく質問ですね。まずざっくりと結論からいいますと、ネットにあるフリー素材は、「無料で使えるが、あらゆる用途で自由に利用できるわけではない」というケースが多いようです。
―100%自由ではなく、制限があると。もう少し、詳しく教えてもらえますか?
数藤:まずは話の前提として、「フリー素材」とは何を指すのかから確認しておきましょう。「フリー素材」について確たる定義はないようですが、ネット上のフリー素材のサイトでは、「無料で使えること」をもって「フリー」、つまりロイヤリティフリー(利用料が無料)という意味で使われることが多いようです。
―フリーは「無料」の意味であって、「自由」ではない場合も多い。
数藤:そうですね。たとえば今(2019年1月)、Google検索で「フリー素材」と入れて検索してみますと、上位に 「いらすとや」さんや 「ぱくたそ」さんが出てきます。「いらすとや」さんには、 「フリー素材を使う人のイラスト」までありますね(笑)
この2サイトの素材は、どちらも無料で利用できますが、著作権を放棄しているわけではありません。(※このインタビューは2019年1月時点のものです。フリー素材の利用をお考えの方は、かならず最新の情報を確認してください。以下の発言についても同様です)
―どちらもよくみかけるサービスですね。著作権を放棄しているという意味での、著作権フリーのサイトではないのですか?
数藤:たとえば「いらすとや」さんのトップページをみますと、「無料でご利用いただけますが著作権は放棄しておりません」と明記されています。
―著作権フリーではないのに、どうして無料で使えるのでしょう?
数藤:著作権を残しつつも、ユーザーに対して、利用(コピーなどの複製行為、インターネットへのアップロードなどの公衆送信行為など)を認めているからですね。法律用語では、著作権の利用の「許諾」をしているといいます。「許諾」は無償でも有償でもできますので、よくあるフリー素材のサイトの場合は、誰に対しても無償で許諾をしていることになります。
―許諾を受けていても100%自由ではないということですが、たとえば他にどんな条件がありますか?
数藤:よくある禁止事項としては、公序良俗に反するような利用の禁止や、素材それ自体の再販売の禁止、イメージを毀損するような利用の禁止などが挙げられますね。たとえば「いらすとや」さんの 「ご利用規定」を見ますと、「個人、法人、商用、非商用問わず無料でご利用頂けます」と明記したうえで、このように書かれています。
当サイトのイラストは以下の場合、ご利用をお断りします。
公序良俗に反する目的での利用
素材のイメージを損なうような利用
素材自体をコンテンツ・商品として再配布・販売
(LINEクリエイターズスタンプ等も含みます)
その他著作者が不適切と判断した場合
わざわざLINEクリエイターズスタンプが明記されているところを見ますと、そのような問い合わせが多かったのでしょう。また、あまり知られていないようですが、「いらすとや」さんの素材は、商用目的の場合は1つの作成物につき20点までしか使えず、21点目以降は有料です(「作成物」が何を指すかについては、「いらすとや」さんのサイトの説明をご参照ください)。
―なるほど。たとえば、どんな場合が商用目的になるのでしょうか?
数藤:「商用」の定義もサイトによって様々ですので、サイトの利用規約などをよく見る必要があります。「いらすとや」さんの場合は、「外部から制作費を貰って作成する場合は、無料配布するものであっても商用利用となります。」などと細かく取り決めているようです( 「よくある質問」ページ参照 )
―イラストではなく、人が写っているような写真の場合も同じように考えてよいのでしょうか?
数藤:人物が写っている写真の場合は、さらにその方の肖像権も問題になりますね。法律上は、著作権と肖像権はまったく別ものですので、著作権をクリアしたとしても、肖像権の問題はなお残ります。
写真素材のサイトをみますと、「モデルリリース」、つまりモデルさんから自分の肖像を利用してもよいという同意をもらったうえで、素材を配布しているケースがよくあります。先ほど挙げた「ぱくたそ」さんは、モデルリリースを得た写真について 明記しています。
―肖像の利用にも、制限はあるのですか?
数藤:やはりモデルさんのイメージを損なう利用などが禁止されるケースが多いです。「ぱくたそ」さんで言いますと、モデルや所属事務所の評価が著しく低下する利用や、イメージキャラクターや公式イメージとしての利用を 禁止しています。
―フリー素材を利用する時に、他に気をつけておいた方が良い点はありますか?
数藤:一口にフリー素材のサイトと言っても様々ですので、「本当に権利が処理されているサイトなのか?」という点には十分に注意してください。たとえば、多くの人が素材をアップしているようなサイトでは、「フリー素材」をうたっていても、実際には著作権や肖像権の問題がクリアされないままアップされている場合もあり得ます。また、ロゴなどの商標が写り込んでいる素材については、使い方次第では商標権侵害が問題になる場合もあります。
―実は権利処理されていない場合もあると。
数藤:Googleの画像検索をつかってフリー素材を探している人もいるかと思いますが、出てきた画像は、必ずしも権利処理がされたものとは限りません。必ず、素材をアップしている元サイトの利用規約などをよくご覧になって、利用条件をみたしているかを確認してください。わからない点があれば、安易に判断せず、周囲の専門家に相談するようにしてください。ネット上の写真を無許諾で自分のウェブサイトに掲載したところ、裁判に発展して、損害賠償が認められたケースもあります( 東京地裁平成27年4月15日判決。このケースでは、認定された損害額は約20万円でした)。
―ここまではデザイナー目線でいろいろうかがいましたが、最後に、クリエイターに発注する企業の側が気を付けることはありますか?
数藤:依頼したデザイナーさんがフリー素材を使っている場合は、その素材がきちんと権利をクリアしたものなのかどうか、念入りに確認すべきでしょう。これはフリー素材に限った話ではありませんが、デザイナーさんとの契約のなかで、「第三者の権利を侵害していないこと」の保証を求めることも考えられますし、それ以上に、デザイナーさんとよくコミュニケーションをとって、使っている素材に問題がないかを確認することも重要ですね。
―たしかに、デザイナーと発注側との密なコミュニケーションは大切ですね。今日はありがとうございました。
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数藤 雅彦
東京大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。
ウェブサービスや映像、デザイン、アートに関する法的アドバイス、契約サポート等を広く取り扱う。大学・企業等での著作権の講演やレクチャも多数実施。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会副委員長
筑波大学法科大学院非常勤講師
著作権法学会、デジタルアーカイブ学会会員