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INTERVIEW 2019.2.18

マッピングを意識しながらのインプットじゃないと、センスは磨けない。

ログミー株式会社 代表取締役 川原崎晋裕

全文書き起こし、という従来の「編集」とは全く異なるコンセプトでさまざまなイベント、セミナー、対談などをログするメディア『ログミー』。斬新なアイデアだけでなく、それをカタチにし、拡散していく巧みな戦略と戦術でWeb界隈に存在感を示しているのが代表の川原崎さんである。『日刊サイゾー』の立ち上げ、数多くのメディアコンサル、さらに起業に至るまでのプロセスで吸収してきた知見、経験は含蓄のある言葉でアウトプットされる。デザイナーやライターなど日々クリエイターとの接点も豊富な川原崎さんのクリエイティブ論・センス論をシェアしたい。

天才なんか、いなかった。

―キャリアのスタートは営業だったそうですね

人材系の企業に新卒で入社して、求人広告の営業をやっていました。入社試験の時点では制作部門を希望したのですが…なぜか不採用で(笑)営業にまわされたという。非常に営業力の強い会社だったことから、3年間みっちり鍛えられましたね。その経験はいまでもめちゃくちゃ活きているなと思います。

―どんなことに?あるいはどんなふうに?

たとえば編集と営業って対立しやすい構造じゃないですか。そんなとき、僕は多少なりとも相手の気持ちになれる。それって交渉の場においては勝ちどころだったりするんですよね。あとは数字がわかることも大きい。これは編集にもプロデューサーにも実は重要なスキルなんです。あらゆる職種に対してリスペクトできるマインドと数字に強いことは営業時代に培われた僕の強みです。

―その後、まったくの未経験で編集の門を叩きました

文字通りずぶの素人でした。業務委託で月18万円、保険も未加入からの再スタートです。それまでは営業職ということもあり、年収450万円ぐらい。保険も何もかも揃っていた。でも悲壮感は全くなかったですね。そもそも物欲なかったし、ようやくクリエイティブな仕事に就けた楽しさが勝ってました。でもそんなふうに夢中になって仕事に打ち込んでいくうち、自分には判断軸がない、という重要なことに気づくんです。

―判断軸がない?

それまではクリエイティブな仕事に漠然とした憧れを抱いていたんです。なんだか独自性あふれる、個性のようなものを最大限発揮して自由に創造する、すごい仕事だと。でも実際には違っていて、チョイスしたりジャッジしたりする作業の連続だった。そしてそのためにはできるだけ多くの比較対象物を周囲に置くことで自分のつくろうとしているものの立ち位置を明確にする必要があった。そうしないとモノの良し悪しも判断できないわけですから。

―クリエイティブってひらめきみたいなものじゃなかったと

『日刊サイゾー』を立ち上げるときに、サイトの色をどうするか、書体は何を選ぶか、レイアウトは…といった一つひとつに理由をつけてデザイナーに説明できなかったんです。その経験からロゴやデザインといったクリエイティブとは天才的な発想から生み出されているのではなく、コンセプトやビジョン、競合、市場環境といったものから総合的に判断され、緻密な計算の上に成り立っているということがわかりました。

センスもクリエイティブも100%説明できる。

―いまにつながる大切なことをいろんな人から吸収していったんですね

やっぱり目の前の仕事を一生懸命やるっていうのは自信がないとできないと思うんですよ。この人についていったら大丈夫だと確信が持てれば、一生懸命になれる。将来につながるかなんて関係なくても、やるって決められると思う。だから仕事においては社内外問わず、好きな人としか付き合わないって決めていました(笑)。

―そのポリシーに忠実だったんですね(笑)

だからメディアの編集とは一見関係なさそうなデザインの勉強も一生懸命やりました。デザイナーからも吸収したし、実践もした。プログラミングなんかもそう。この先で何かの役に立たなくてもいいや、ってぐらいの気持ちだった。だけど時間が経つとそれらがきちんと活きてくるから不思議ですよね。

―そうやって得られた知見は言語化しやすそうです

さっきのクリエイティブと同じく、センスって言葉も抽象的なイメージありますが、やはりきちんと説明できます。僕にとってセンスとは、物事を最適化する能力のこと。そのためには座標をたくさん持つこと。そして対象の位置を正確に測ることが大事です。この考え方のヒントは『センスは知識からはじまる』(水野学著・朝日新聞出版)という本から学びました。たとえば「これっていい曲だね」という感想。これ、何も知らない人が感じたままに口にするのと、音楽に詳しい人が言うのとでは意味も深さも全然違うものになります。

―知っていることが大事ってことですか

いろんなジャンルの音楽を知っているとか、楽器に詳しいとか。あるいはポップスにもロックにも精通していて、それらの関係性を語れるとか。いい曲を語る観点、つまり座標がそれだけ多くなりますよね。だから良さをより正確にあらわせる。これがセンスだと思うんです。周囲の情報をたくさん知っていて、さらにそれらの関係性を知っていれば知っているほど、いま作ろうとしているものがどのあたりに位置するかを説明できるわけです。

―つまりインプットが大事ってことですか?

ただ単にインプットすればいいというものでもなくて。単体の情報をどれだけ知っていてもそれだけじゃ意味がありません。それよりもインプットしながらマッピングすることが大事。一つ一つの情報の関係性ですね。ミステリと純文学があったとしたら、書き方はどう違うか、時代背景は、作家ごとの違いは、などお互いの差異を測りながら知識を深める。そうすることが最適化、つまりセンスを磨くことになると思います。

好きにまっすぐ、でいいと思う。

―センスもクリエイティブも霞の中の出来事じゃなくなりますね

昔に比べるとクリエイティブが謎に満ちたものじゃなくなってきていますよね。コモディティ化も進んでいる気がします。おそらくですが、アートとクリエイティブが明確に分かれてきたからじゃないでしょうか。以前はその境界線が曖昧だったというか、線引きをあえてしなくてもよかったのが、ここ数年でビジネスがどんどんクリエイティブの領域に踏み込んできているようです。

―デザインを経営に活かす、という動きですね

ビジネスの世界がクリエイティブに歩み寄っている印象を受けます。もともとコピーライティングは商業文章そのものですし、デザインや写真も目的があって、それに向かって創造されるのであれば経済活動に含まれると思いますよ。クリエイティブはあくまで目的のために制作物を最適化する、計算し尽されたものと定義して良いのではないでしょうか。

―逆にひらめきや個性、天才的発想みたいなものは…

それはもうアートにしか残されていないんじゃないでしょうか。アートにも社会課題の解決や自己欲求の発散といった目的はありますが、それらはより内在化されたものであるため外側に正解がなく、個性などが反映されやすい。でも、クリエイターも最初は「好き」から始めていいと思います。自分の「好き」にまっすぐでいること。まずは自分の好きな対象をつきつめていって、自分の中に1つ目の座標を築き、そこから徐々に外の世界へと視点を広げていく。それがさっき言ったセンスを磨くことにもなるし、そのコミュニティの中でネットワークを持つことができたりすればさらに世界が広がると思うし。

―ほかに若手クリエイターに必要なことってなんでしょう

やはり目的にこだわることでしょうね。目的を達成するために最適な方法、かつ自分がやれることを常に追求していく。さらに時代や市場のニーズにあわせて技法もアジャストしていく。たとえば自分はこのタレント嫌いだから使わない、じゃなくて、その商品を売るのに最適なのであれば起用する。それができないとただの独り善がりになっちゃいますしね。

―同じこだわりを持つなら目的達成に持て、と

自分が作りたいものを作る、というのであれば自分のこだわり100%でやればいいと思います。でも商品売らなきゃいけないのに自分が作りたいものを…というのは職業倫理にもとる。目標達成を究めたデザイナーがアートディレクターへと成長していけば、より大きなお金も生み出せるし、視野も広がるし、自分のことももっとわかるようになるし、いいことづくめじゃないかと思います。

―ありがとうございます!最後にこれからのクリエイターに期待することを

そうですね…クリエイティブをもっともっと普通のものにしてほしい。まだ少し残っている神格化された部分をバラバラに分解してほしい。高いところにある神聖なるクリエイティブを身近なところまでおろして、ほら、こんなにふつうのものでしょ、って見せてくれるクリエイターの登場に期待します。クリエイティブは魔法じゃなくて手法なんだから。

―本日はありがとうございました!


▼その他インタビュー記事
成果につながるクリエイティブは「本質理解」と「情熱」から生まれる。(freee株式会社 執行役員 CMO 川西康之

ログミー株式会社 代表取締役

川原崎晋裕

1981年生まれ。大阪大学経済学部卒。2004年エン・ジャパン株式会社に入社し、求人広告の営業職として3年間従事。2007年、株式会社サイゾー(当時は株式会社インフォバーン)に入社。最初のウェブメディアとなる「日刊サイゾー」を立ち上げ、黒字化に成功。その後、メディア事業の責任者として10以上のメディアやサービスを立ち上げ、月間1.5億PVを超える事業へと育てる。2013年8月、ログミー株式会社(当時は株式会社フロックラボ)設立。書き起こしメディア「ログミー」を運営する傍ら、メディアコンサルタントとして外部の様々なメディアの企画・運営に携わる。