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名門バレエ団プリンシパルからフリーへの転身を果たしたダンサーが語る「組織にいるうちにやっておくべきこと」
INTERVIEW 2021.2.05

名門バレエ団プリンシパルからフリーへの転身を果たしたダンサーが語る「組織にいるうちにやっておくべきこと」

バレエダンサー 渡辺理恵

「独立」…クリエイターであれば一度は考えるキャリアの選択肢。いつかは一本立ちして、自分の名前で仕事を獲りたい。そう考えるクリエイターは少なくないはず。しかし世の中そんなに甘くないのも事実。独立したはいいが食うや食わずで後悔、というケースも枚挙にいとまがない。では独立して成功するクリエイターには何か共通項のようなものがあるのか。その答えを探しに、あるバレエダンサーを訪ねた。渡辺理恵さんだ。名門・東京バレエ団でプリンシパルを務めたのちフリーランスに転向。現在舞台と教室の2つの柱で活躍中である。渡辺さんの「これまで」と「これから」を切り取ることで、将来独立を志すクリエイターが「いま」何をすべきかが見えてくるかもしれない。そんな期待を込めてマイクを向けた。

自然体のままプリンシパルまで登り詰めた

―バレエ歴は?と聞くのも野暮かもしれませんが、いつ頃からはじめられたのですか?

それがわたしもよく覚えていないのですが(笑)はじまりは幼稚園のお遊戯会と聞いています。踊っている私がすごく楽しそうだったみたいで、それを見た母にバレエ教室へ連れて行かれて。見学したときに「やるか?」と聞かれて「やる」と答えたらしいのですが…バレエが何かもわからずただ走り回っていた記憶しかないんですけどね。

―地元福岡でのエピソードですね

その頃はスタジオにバレエを習いにいく、というよりも部活みたいな感覚でした。同年代の子に会えるのが楽しみだったし、趣味の習い事ぐらいの感じで。でも途中でやめることもなく、高校までずっと続いていました。勉強とバレエを両立できるように、高校もスタジオに近いところを選んだぐらいです。

―転機はいつ頃?

高校卒業するにあたって、はじめて進路どうしよう、となって。福岡で過ごしているときはなかなかバレエダンサーで食べていくという選択肢があるとは想像しにくかった。だけど東京にはバレエ団もあって、プロもいて、公演も盛んで。そこでまずは進学をするのかどうするかと考えるようになったんです。

―大学進学も一応は考えていたわけですね

一応、受験もしましたし、進学したとしてもバレエは並行してやっていくだろうな、と。子どもたちにバレエを教えることは好きだったので、教育の方向で進路を考えていました。でも、バレエ雑誌を見ると東京ではオーディションがいっぱいある。とりあえず未知の世界だけど受けてみようかなって。

―それで受かっちゃったとか?

そうなんです(笑)。いくつか履歴書を送って、東京にレッスンも受けに行きました。その中でひとつ、東京バレエ団から合格をいただけたんです。で、せっかくのチャンスだから、いってみようかなと。あまりに急な思いつきで、母がいちばんびっくりしていましたね。東京へ行くことも、わたしがプロのダンサーになるなんて言い出すことも想像しなかったでしょうし。

―結局大学はいかず、入団されたんですね

合格通知をいただいてからは迷わず、決めてしまいました。それから14年間も在籍していたわけですから、いま思えば長くいたなって思います。入団当初は「コール・ド」と呼ばれる、いわば「その他大勢」でみんなと一緒に踊り、そのうち「ソリスト」になり、最後の2年で「プリンシパル」というポジションをいただきました。

―最初から「いつかはプリンシパルに」というような野望を抱いていた?

入団当初はなんでもやろう、という精神でした。ステップアップとか、何年でここまでいこうというような目標も立てないで、とにかくやろう、しかなかった。だから野望というものはほとんどなく、あくまで気がついたら、って感じです。

新しい景色を見たくなったから

―とはいえやはり厳しい稽古などあったのでは?

いや、まったくなかったです。厳しいことってあったのかもしれないけれどあまり感じなかった。わたしが鈍いだけなのかもしれませんが(笑)。出来なければ当たり前に厳しいですし、それよりも好きなことを楽しくやっていただけ。たぶん辞めたいと思ったらその時点で辞めているでしょうし、不毛な思いまでしてやるタイプじゃないんですよね。だからプリンシパルに、とのお話がきた時も特別すごいことをやってきたような実感がなかったし、自分でも不思議なぐらい。

―そんな渡辺さんでも退団しようと思う日が来たんですね

退団する3年ぐらい前から、バレエの世界の外を見てみたいと思うようになったんです。生まれてから高校卒業するまで福岡にいて、社会を知らないままバレエ団に入って十数年。バレエ界はバレエを中心に物事が動いています。まわりはいつも同じメンバーで安心感もあります。じゃあ思い切ってそこから外に出てみたら何が見えて、どう感じるんだろう、って。

―外の世界への興味がきっかけだったと

新しい景色を見たくなった。好奇心というか実験というか。ちょうどバレエ以外の舞台に立つこともあって、演劇や音楽などちょっと違った分野の方たちと接する機会がありました。分野が異なるだけで目指している方向が同じ人たちに触れることで気づきがあったんですね。自分の世界はバレエだけじゃないかもしれない、と。

―退団までは少し時間がありましたね

ちょうど悩んでいたそのタイミングでプリンシパルに、ってお話をいただいて。それはそれで、わたしにとっては知らない世界だったのでやってみよう、と。プリンシパルになることで新しい世界につながるかもしれないと思ったんですね。自分の経験にもなりますし。でも、やっぱりもう少し広いところを見に行きたくて、結局は2年後退団を決めました。

―やり切った感もあったのでは

そうですね、それもあるかも。それにバレエ団に在籍している間は教えてもらうことがたくさんあるんですね。言い方を変えると、受け身でいられるところが多分にあります。役も与えてもらえるし。もちろんそのなかでどう演じるか、どう表現するかは自分で考えるんですが、結局やること自体は誰かに与えられたものなんです。

―なるほど…

そこを一から自分でつくっていく、ということに惹かれたんですね。たくさん教わったことで自分の試し方は学んでこられた。バレエ団にいればいるだけ、まだまだいろんな発見もあったでしょうし、教わることもあると思います。でも、教えてもらうだけ、教えられるばかりではもったいないなと思って。

自分でやることに自分で責任を持つ

―フリーランスになって感じる最も大きなギャップは?

やっぱり時間の使い方ですね。バレエ団にいるころは本当に全部管理してもらっていたんだ、と実感しました。まず一日のスケジュールが細かく決まっている。朝も決まった時間にレッスンがあり、曜日ごとに先生が決まっているし、午後のリハーサルも毎日スケジュールが組まれていて、各自その時間に参加する。

―すごいですね…

決められた場所に行けばレッスンが受けられるし、リハも進むし、極端な話、待っていても本番当日がやってきます。何ヶ月後にこの舞台でこの踊りをやる、とか、どんどん流れ作業のように物事が動いていくので何もしなくても良かったんです。誰かが必ず進めてくれるので、私にはそれに則ったルーティンが決まっていたという。

―フリーではそういうわけにはいかない

もう全部自由だし、自分でやらないといけない。どこかに行くにも目的地も自分で調べる。当たり前のことなんですが、それがとても新鮮で。とはいえ驚くわけじゃなくって割と普通に「こういうもんなんだ…」って受け入れる性格なんですけどね。経理関係とか事務作業とかも、こういう仕組みになっているんだ、という発見の連続です。

―渡辺さんが事務作業もするのってちょっと不思議な感じです

いままでは組織内でいろんな人が分担してやってくれていたんですね。経理作業は事務所の経理部が、売り込みは営業がそれぞれいて。独立したいまはそれもすべて自分で抱えています。それまでも確定申告などはやっていたんですけどね。団体に所属しているとはいえ、個人事業主でしたから。

―そういう意味では最初からフリーランスだったわけですね

そうなんです。でも団体に属している以上はその看板でお仕事が入ってきますし、継続的に安定しているんですね。だから時間の使い方も縛られるのはある程度仕方がなかった。逆にいまは組織からも離れて、わたしの名前だけで社会に出ている、という実感を味わっています。時間の使い方も自分の裁量ですし。

―自由だけれど、リスクもありますよね

わたしの場合、自分でやることに自分で責任を持てるのは嬉しいことなんです。どうせ自分で責任とるんだから、好きなようにやろうって。誰も何も言わないし、もし上手くいかなかったとしてもわたしが悪かった、と頭を下げればいいわけですし(笑)。

―お仕事が入ってくる流れというのは?

舞台のお仕事は圧倒的に直接お話をいただくケースが多いですね。バレエ団のときに築いた人脈といいますか、人とのつながりで。辞めた直後も「続けて舞台に立ってほしい」といろんな方からお話をいただいていましたし。本当にありがたいことだと思っています。

―舞台の他には?

在籍中から少しずつレッスン教師をやっていまして、いまそれが主な活動の柱になっています。退団を決めた後、さて何をしようかなって思っていた時に「先生、レッスンしてください」ってお声がけをいただいたので、じゃやりましょうと。舞台があるときはお稽古が入ってくるのでお休みさせていただきつつ、続けています。

―そのあたりの裁量も自分次第なんですね

やっぱり舞台を控えると気持ちのスイッチがそっちに入ってしまうので…そうなったときもまわりは理解してくださる方ばかりで恵まれています。お休みをいただきたいと言えば快諾してくださるんです。レッスンのお仕事も周囲の方からの助けがあって成り立っていますね。

踊りには人柄が出る

―バレエ団にいた時の人脈が独立後も重要なんですね

在籍中にいちばん近いのは同じバレエ団の仲間ですから、まずそこから大事にしていく必要があると思います。主役をやっているときも周囲にはコール・ド・バレエがいるわけで、同じ舞台に立つ人たちから嫌われてしまうよりは尊敬してもらえるほうがいいわけですよね。たとえ直接関わらなくとも、人間的な魅力は伝わっていくものですし。

―なるほど

結局、踊りには人柄が出るものです。だから人格を磨くというか、愛される人物であろうとすることはとても大事ではないかと思います。面白いもので、踊りを見ているだけで「あ、この人とは合うな」なんてわかるんです。実際に話してみてもそう思うことは多いです。

―その人柄が多くの人を惹きつけるわけですね

いい人間関係の輪みたいなものが仲間であるバレエダンサーから舞台裏のスタッフ、団の関係者、さらにはお客様へと広がっていけば独立後にもお仕事で苦労することは少ないんじゃないかと思います。といってもわたしの場合、特別、意識してやっていたほどもないんですが。

―そうはいっても意識されていることはおありじゃないですか

そもそもビジネスだったり事業的なものには全く向いてないなぁと感じていて、その代わりといったら変かもしれないんですが、素のままで生きているんですね、わたし(笑)。嘘はつきたくない。お世辞を言うにも下手ですし。なんか違うなと思ったらただ黙りこむという。バレてる人にはきっとバレてるんですけど。

―それが渡辺さんの魅力なのかもしれません

こんな性格ですけど、それを尊重してくださるというか、否定しないで受け止めてくれる人がいることが自分にとって居心地がいいんです。そういう相手のことをわたしも敬いますし。とにかく裏表なく、正直に、誠実に生きる。それだけを心がけていますね。

―振り返ってみて組織にいてよかったことは?

いろんなことをやらされていたわけです。自分だったら選択しないことも。それがよかった。拒否も否定もせずに、とにかくすべてやってみたということは、ものすごくいまに活きていますね。ここから先は自分で選んでいくので、自分なら選ばなかったであろう時間の使い方や選択肢を経験してきたのはプラスでしかありません。

―今後の渡辺さんのビジョンをお聞かせください

フリーランスとしてやるべきことはたくさんあります。この状況下では舞台に立つこともなかなか厳しいですが、それでも機会があれば表舞台に立ちたいです。やはりわたしにとっての表現の手段はバレエなので。あとクラシックに限らずコンテンポラリーにもチャレンジしていきたいです。踊りのジャンルは大した問題ではないですが、自分にそれらの要素が加わるのは面白いんじゃないかと。

―レッスンのほうはいかがですか?

子どもから大人までいろんな人がバレエを楽しむことで体や心が救われるのかな、って思っています。少なくとも通ってきてくれる人にとっては何かしら必要性があるはず。だからレッスンを絶やさないように続けていきたいですね。そういう場を継続できるよう、維持していくのもわたしのチカラにかかっていると思います。最近は、外に出て活動を行なうのも難しい状況になったので、だからというか、ピラティスの勉強もはじめました。こう思い切れるのもフリーランスの良いところかなと。今後の新しい活動の柱に出来るよう頑張りたいです。

―ありがとうございます!これからのご活躍にも期待しています!

取材・編集:早川博通( @hakutsu )
撮影:小野千明
映像編集:高橋悠平

~Behind the scenes 今回の取材の舞台裏で~

※今回の取材時に特別に踊っていただきました。

バレエダンサー

渡辺理恵

福岡県福津市出身。6歳よりバレエを始める。高校卒業後、東京バレエ団に入団。2016年プリンシパルに昇格。「白鳥の湖」「ジゼル」「くるみ割り人形」「ラ・シルフィード」にて主演。その他、M・ベジャールをはじめ様々な振付家の作品に取り組む。海外公演にも参加し、ヨーロッパ各地の劇場で舞台に立つ。2011年よりバレエ教師として指導を始める。2018年同バレエ団を退団。ダンサー・教師として活動の場を広げている。

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