デザインで事業成長にドライブを。インハウスだからこそできるブランドクリエイティブ。
「経済を、もっとおもしろく。」をスローガンに掲げ、ソーシャル経済メディアとして国内最大規模を誇る『NewsPicks』。新規事業開発や組織活性化、企業内インキュベーションからSaaS開発までを手掛ける『AlphaDrive』。いずれもユーザベースグループを構成するビジョナリーな企業だ。その両方に跨ってクリエイティブディレクターとして活躍しているのが、今回インタビューにご登場いただく村木淳之介さんである。飄々とした雰囲気を纏いながらもその言葉は鋭く、深い。ビジネスとクリエイティブがぶつかりあう潮目で辣腕をふるう村木さんに、新規事業にクリエイティブが果たす役割や企業ブランディングに大切なことなどを語ってもらった。
ブリットポップとの出会いがデザインの扉を開けた
―肩書はクリエイティブディレクターですが、もともとはデザイナーだったんですね
大学を出たあと、広告制作のデザイン会社に入ったのがキャリアのスタートです。紙媒体を中心としたマス広告に3年ほど携わっていました。広告はいまでも好きなのですが、制作会社の立場だといろいろな商品やサービスを扱うことになりますよね。僕はひとつの企業にもっと深く関わり、寄り添うデザインがしたかった。そこで事業会社に転職しました。
―ご自身の意思でインハウスの道を選んだ
その会社は不動産テックのベンチャーでした。入社後にどんどん売上が伸びていき、最初は不動産関連のクリエイティブ全般を手掛けていましたが、上場などを経てブランディング推進室が立ち上がることに。そこからですね、本格的にコーポレートブランディングに興味を持っていったのは。
―その後、もう1社はさんでNewsPicksにジョインすると
次の会社はある意味ブランディングが完成していて手を出す余地があまりなかった。でもIR関係に携わることができたので、短い在籍期間ながらも学びは大きかったですね。NewsPicksでは「まったくゼロからブランディングをやりたい」と言ったら、ちょうど新規事業開発部署ができるところだった。具体的になにをやるかは決まっていませんでしたが、いいタイミングということでジョインしました。
―AlphaDriveへの参画は入社後だったんですね
NewsPicks Enterpriseという新しいサービスを創ったりブランディングを進めていたところ、昨年の10月にAlphaDriveがユーザベースグループ入りしました。この2つの会社のビジョンが共通していたことから、じゃあ両方に籍を置いてどちらも見よう、と。いまは2社全体のクリエイティブに関わっています。細かな制作物からコーポレートブランディングまで。
―じゃあ最近では手を動かすことが減っている?
それが全然減っていない(笑)。実はクリエイティブ関係は人数がかなり少なく、結構手も動かしているのが現状です。なので最近では社外のクリエイターやプロダクションに手伝ってもらうことも増えていますね。デザインだけをお願いすることもあれば、クリエイティブエージェンシーに企画から動いてもらうこともある。そんなときはプロデューサー的な立ち位置での関与になりますけどね。
―もともとデザインワーク自体、好きというか得意だったりしますか?
割とそうですね。高校時代から音楽が好きで、80年代、90年代のイギリスカルチャーにハマっていたのが原体験です。ブリットポップ、特にレディオヘッドが好きだったのですが、CDジャケットのデザインってカッコいいのが多いじゃないですか。で、どうしたらこういうものが作れるのか調べたところ、デザイナーという職業を知りまして。だったら美術大学で勉強しよう、となって今に至るという。
―クリエイティブの入口はアルバムジャケットだったんですね
中でもブラーのベスト盤に衝撃を受けました。ジュリアン・オピーって画家が描いたメンバーのポートレートなんですが、それが一番刺さりましたね。シンプルな平面構成と色使いなのに、どうしてこんなに整理されて綺麗なのにエモーショナルなんだ、と。グラフィックデザインというものを真剣に考え始めたきっかけでもあり、いまだに影響受けていますね。
インハウスクリエイターこそエッジを効かせるべき
―2社のクリエイティブを同時に見るとなると、相当お忙しいのでは…
ええ、仕事は多いですね(笑)。ちょっとここにシートで管理しているプロジェクト一覧があるのですが…(と、スプレッドシートを見ながら)大きめの案件だけで6つ、それぞれサービス全体のデザイン設計やコンテンツの制作、コーポレートビジュアルの設計、ライブ配信用のスタジオ空間デザインやテロップのデザイン、あとSaaSサービスのディレクションとかですね。加えて2社に跨って全体のブランディングにも関わっています。
―粒度も求められる精度もバラバラのプロジェクトが同時進行…
たった一人でこれだけ携わる物が多いと、それぞれのディティールのクオリティまで追求しきれないのが正直な課題です。ビジネスサイドの目線で事業を動かすために最低限のレベルでスタートしたり、多少クオリティを犠牲にしてもスピード最優先でということもありますし。でも、アウトプットの質を高め、事業をドライブさせるために採用は進めています。
―村木さんのパートナー、どんなクリエイターが適任なんでしょう
僕はその人の個性をすごく大切にしたいです。だからエッジが効いている人ですね。もちろんビジネス目線やブランディング目線で複合的にいろんなことを考えながら仕事できるスキルは重要ですが、それ以上に個性というか、面白みのある人。技術力とかプレゼン能力とかを持っていても、何かひとつ僕よりも特化した部分がないと採用しないですね。
―自分の強みや世界観を持っている方ですね
インハウスのクリエイターって、いわゆる普通のことができる人の集まりになりがちですが、そういう組織にはしたくなくて。そもそもNewsPicksのデザイナーの採用方針として重要なのが『どれだけエッジがあるか』なんです。丸形の組織ではなく、星型の、とんがった組織を目指している。その考え方は僕もすごく賛成で、結局それがサービスやプロダクトの他社との差別化要素やストロングポイントになると思うんですよね。
―エッジの効いたインハウスクリエイターこそ企業にとって価値があると
ただ、インハウスクリエイティブにも課題はあって。それは差別化が難しいところです。日本の社会では「合わせること」が文化として根付いているため、どうしてもビジネスサイドや他社サービスとのバランスをみて方向性を決めるケースが多くなってしまう。その状態に陥りやすいのがインハウスクリエイティブです。
―そうなると角の取れたクリエイティブになってしまうのでは?
そうなんです、その中から生まれるクリエイティブはどうしても面白みが弱くなりがち。ブランディングやプロダクト訴求で重要なことは、他にない価値をどれだけ明示できるかだと思います。ビジネスサイドのアイデアや思想を、いかに自分たちのエッジを持ったクリエイティビティに昇華できるか…これこそがインハウスクリエイターにとって重要なことだと思います。
―現状、あたりさわりなくおさまっているものが目立つと
綺麗にまとまっただけのデザインや、どこかの真似事みたいなクリエイティブを見てもワクワクしないんですよね。本来ならインハウスクリエイターがグラフィックデザインの表現手法をフルに発揮することで、圧倒的な立ち位置、その企業の独自性を確保できるはずなのに。事業成長のためにもインハウスのデザインは絶対に磨き上げていくべきだと思いますよ。
事業成長にクリエイティブが果たす役割
―どうすれば日本のインハウスクリエイティブは活性化するでしょうか
いちばん大きいのは経営方針だと思います。そもそもクリエイティブを求めていない事業なのにそこで無理やりデザイナーが暴れまわるのもおかしな話で。経営者の判断の中にデザインを重用する軸があるかないかが大事でしょうね。
―でもそういった軸を持つ経営者って少ないんじゃないですか?
そうかもしれません。だから、レアな例なのかも知れませんがAlphaDriveやNewsPicksはめちゃくちゃやりやすい。ビジネスとデザインがクロスしますが、近づきすぎない絶妙な距離感がとれています。お互いが尊重しあって、それぞれ特化した領域を融合させることができていると感じます。
―ビジネスサイド、クリエイティブサイドが信頼しあっている
コミュニケーションも密に頻繁に、というわけではなくて、根本というか原点の部分を議論して共有できていると感じています。ベースの部分の方向性をお互いに把握しあうのは、どこの会社でもすごく大切だと思いますよ。AlphaDriveやNewsPicksの特徴はそれが経営陣だけでなく、みんなそういう発想になっているところにあります。
―村木さんが企業ブランディングを手掛ける際に大切にしていることは?
素直にその会社が目指すべき未来像を、嘘偽りなくしっかりと見せてあげることではないでしょうか。あと、社会に対してどういった意義でサービスやプロダクトを開発し、届けるのか。その原点となるストーリーをお客さまや社員の間で共有することが大事ですね。
―ストーリー以外で必要なことはありますか
デザイン面でのアプローチでいえばロゴや空間などのビジュアライズですね。そしてインナーでのコミュニケーション。これ結構、重要度大きいなと思っていて。ひと言でブランディングといってもいろんなものが含まれます。ひとことで言いにくい。だからこそ、ひとつひとつの蓄積の集大成でもあると思っています。
―つまり社員の言動なども重要になってくる
そうです。それも「こういうことを言ってください」ってお願いするのではなく、自分たちの会社の見せたいストーリーというか、軸みたいなものを少しずつチューニングして整えていく。そうすることで自然と社員の発言が変わっていったりする。そこまで介入してブランディングをきちんとやるには、やっぱりインハウスということになるんですよね。
―企業変革にも通じてきますね
まさにNewsPicks Enterpriseでやっていることはそれです。大企業におけるCX(コーポレートトランスフォーメーション)ですね。僕らはコンテンツを通じて企業が描く未来の先を提示して、それを社内でどう展開し、浸透させるのかを施策として打っている。それって、結果的に僕が目指しているクリエイティブの世界観と直結しているんです。
世の中の課題を解決するプロダクトをつくりたい
―新規事業立ち上げにもクリエイティブの力は有効なんでしょうか
携わってそれほど日が経っていないので、いまの時点で明確な効果は目に見えていません。ただ、間違いなく必要ではあります。というのも新規事業って長期的に見ると波があって。成長曲線がダウントレンドになることがあるんですよね。そういうとき、社員のモチベーションを前向きにできるのがクリエイティブの役割だと思っています。
―先行き不透明な世の中ですからね
あとは個々人の悩みを分かりやすく伝達できるようなビジュアルコミュニケーションができるといいですね。プロジェクトの参加者が安心できるような。そういうところにも僕のデザインの原点でもある、シンプルでボールドでキャッチーなコミュニケーションを役に立てていきたいですね。
―ありがとうございます!最後に村木さんが今後やってみたいことを…
やっぱりプロダクトを作りたいな、という思いがありますね。いまクライアントの新規事業開発などに携わっていますが、いろんな会社の話を聞く中にも身近な課題感とリンクするものがあって。それを形にして世の中に届けたいんです。
―社会課題をクリエイティブで解決する
昔のデザイナーだと家とか空間といった長く残るものを作りたい、ってビジョンが多かったと思うのですが、僕の場合はそれがサービスなんですよね。世の中の課題とか、もっとよくできる部分を改善できる新しい仕組みをつくりたい。
―具体的な構想などあったりするんですか
クリエイティブの世界の課題ですが、クリエイターとして活躍できる人が限られてしまっているということがあります。ひと握りの非常に頭のいい人、高学歴の人が後からデザインを学んだりして、ビジネスデザインなどを提唱するケースですね。一方で圧倒的なデザインスキルを持っているのに日の目を見ることができない人もいる。
―コミュニケーションやプレゼンテーションの問題でしょうか
そうです。だからその間に入ってマッチングができたら、と思っています。障壁の低いものではなくあくまでハイエンド、ハイクオリティをしっかり担保して、適正価格でクリエイティブを提供するビジネス。これができれば日本全体のクリエイティブの質も上がるし、高いスキルを有する人を埋もれさせることなく活躍してもらえる。そんな循環の手助けができたらいいな、って思っています。
―ぜひそのプロダクト、実現してください!期待しています。本日はありがとうございました!
取材・編集:早川博通(
@hakutsu
)
撮影:小野千明
村木淳之介
東京造形大学卒業後、広告制作会社にてデザイナーとしてキャリアをスタート。主にマス広告のグラフィックデザインを手掛ける。その後、2つの事業会社で上場に際してのクリエイティブ、コーポレートブランディングを経験。2019年9月よりNewsPicksにジョイン。2020年1月からはAlphaDriveにおけるクリエイティブも兼務。ビジネスにデザイン思想を組み込んだ、事業成長に紐づくクリエイティブの創出に従事する。