作品は最強の営業ツール!全員デザイナーのクリエイティブ集団がゴキゲンな理由。
ムシカゴグラフィクス、という一風変わった社名の制作会社。ホームページの事業内容には『書籍・雑誌・広告全般のグラフィックデザイン、Webサイトの企画制作』とある。なるほどよくあるエディトリアル系のデザイン会社か、と制作実績を見てみると…その守備範囲の広さに驚かされた。文芸、実用書、児童書、ラノベ、コミックス、雑誌に加えて広告、グッズ、電子書籍など手を出していないジャンルはないのではないか。Webの実績も豊富である。しかもどの作品もバツグンのクオリティで、なんというか全体的に“元気”なのだ。
今回は創業メンバーでもありアートディレクターの百足屋ユウコ氏と入社2年目を迎えようとするウチムロユウキ氏に、同社の“元気の源”について語ってもらった。
一緒にはたらきたい、が採用基準
―最初は2名でスタートした会社ということですが…
百足屋:そうなんです。もともとデザイン事務所に勤めていたんですが、30歳ぐらいで独立しようと思っていて。で、夫もちょうど会社を辞めたのでこのタイミングで二人ではじめようというのがそもそものスタートでした。おかげさまで仕事も順調に増えて、それに伴い規模も…
ウチムロ:いま25名ですね。僕が入社したのが18年の4月で、新卒として入社しました。同期が4人いるから、その年は新卒を5名も入れたことになりますね。
百足屋:ウチとしては新卒とか中途ってこだわりはないんですけどね。ウチムロ君のときはたまたま新卒をたくさん採ったんだよね。面接も覚えてる。美大を出ているわけじゃなかったけどダブルスクールでデザインやプログラミングの勉強やってたんだよね。Webが好きで、エンタメも好きだった。
ウチムロ:大学は社会学部メディアコミュニケーションで、マスコミ寄りではあったんですがクリエイティブではないわけです。手を動かすこともなく。でも広告系のサークルでイラレやフォトショをいじるようになり、就活の頃にはハッキリとこっちの世界に行きたいなと。
百足屋:最初、なんか面白い子だなーっていう印象でした。ほぼ今と同じ雰囲気で(笑)。経験こそないけどポートフォリオをMacBookに入れてきてて、そのMacのほぼ全面に貼ってあったシールがもう趣味全開で。アニメのキャラクター系なんだけど、ああ好きなんだなあって。ウチはエンタメ系だから、そういうのが好きなことはいちばん大事だと思ってるから。
ウチムロ:求人サイトで探していた条件が、Webのデザインとコーディングが両方できるところで、なおかつエンタメに関われる会社だったんです。そうしたら、ムシカゴの募集に出会って。もうピッタリでした。それが3月だから…普通の就活の一年遅れですね。そして内定いただいてから2週間後には入社という。
―採用の決め手はやはりエンタメ好きってところでしょうか
百足屋:もちろんそれもあるけど、ウチの場合、面接を何人かでやるんですね。で、全員がこの子と一緒に働きたいかどうか、で決めています。一人でも嫌だという意見が出たら、まずはその理由を聞くんですが、その上で納得したらNGになるし。またその逆に3人いて2人が嫌でも1人がどうしても欲しい、絶対に面倒見る、なんて言ったら採用してますね。
ウチムロ:僕のときはどうだったんでしょうか…
百足屋:もともとWeb担当を探していたこともあったし、新卒同期4人とも女性だったので、男性っていう点もバランスいいよねってプラスに働きましたね。仕事は…たぶんなんとかなるでしょと(笑)。あと年の割に落ち着いてる。話し方もちゃんとしていたので。いまさらですが、採用して良かったです。
ウチムロ:こんなに褒められたのはじめて…(笑)
営業も進行もいない、100%クリエイター集団
―ウチムロさん、入社前と入社後のイメージで大きく違うところってありましたか
ウチムロ:入る前ってものすごく漠然としていたんですよ。情報があまりなくて。だからステレオタイプなイメージを抱いていました。こういう世界だけに、もっと殺伐としたというか、緊張感でピリピリしているものだとばかり。だから入社後、全然違うなって。意外とほんわかというか、すごく落ち着いて仕事ができる環境でした。
百足屋:普通の会社だと営業や進行といったセクションのメンバーがいると思うんですが、ウチは全てのプロセスをデザイナーが手掛けるんです。窓口業務から顧客折衝…価格面のやりとり、見積もり、契約書関係まで。もともと2人ではじめたこじんまりとした事務所だったので、そういう仕事の人を置く余裕がなかったっていうのがホントのところだけど(笑)。
ウチムロ:いや、でもそれも入社してからビックリしたことですよ。これもやるんだ、ここまでやっていいんだ、という驚きがありました。だから雰囲気がなんていうか、こう、ギスギスしていないのかな。
百足屋:確かに、そういうことかもしれないね。クリエイターだけの集団だから、たとえ隣の人が何をやっているか具体的にわからなくても、抽象的には理解できるし、なによりモノづくりという点において共感しあえるっていうところが社風のもとになってるかもしれない。
―デザイナーが全部やるって、会社員でありながらフリーランスの経験が積めそう
百足屋:結構いろんなスキルが鍛えられるよね。
ウチムロ:それでいうと僕、入社半年目で更新作業を任されていたあるサイトで、いきなり改修作業や仕様変更をやることになって。更新は新人でもできるけど、改修や仕様変更なんてやったことないし。しかも結構な規模のサイトだったので、あの時は大変でしたね。見積もりとか請求の立て方とか、わかんないことだらけで。
百足屋:期待の新人だったので(笑)。早く覚えてもらうのにちょうどいいかな、とも。
ウチムロ:おかげでいま同じレベルのプロジェクトやアクシデントが舞い込んできてもなんとかなるだろう、と思えるようになりました。入社してから鍛えられましたね。でもその時もほったらかしってわけじゃないし、周囲や先輩になんでも聞けば大丈夫だったから、不安ではなかったような気が。
百足屋:ホントにやばくなったら相談するよね。あと、スタッフ同士はチームが違うと何やってるかとか状態がわからないけど、それをまとめている上のクラスの人たちは誰が何やってるかだいたい把握してますね。ちょっと調子悪そうとか、最近遅い日が続いてるね、とか情報共有して見守っています。そこはみんなデザイナーの集団だから、リニアにわかるんですよね。
―仕事の入り方としてはお問い合わせや紹介が中心なんですか?
百足屋:そうですね、グラフィックデザインであれば本屋さんに置いてある本のクレジット見て、検索してくださったり。ブックデザインをきっかけにWebもやってるんですよ、って営業したり。Webは紹介きっかけが結構多いかな。
ウチムロ:そういえばこれも入社してからわかったことなんですが、ウチがこんなにWebやってるとは思ってませんでした。当時は求人サイトでは何やってる会社で、労働条件はこれぐらいで、って話しか載せてなかったですよね。
百足屋:そうそう、あの頃はね、ホームページも情報あんまり載せてなくて。それをウチムロ君が頑張ってリニューアルかけてくれたんだよね。半年ぐらい前に。
再現性のあるなしが、プロかどうかの証
―それにしても直接クライアントだとやりやすい?それともやりにくい?
百足屋:これからもずっと直でやりたいと思っているぐらい、やりやすいです。クライアントと直接やりとりできるから、ダイレクトにニーズが伝わってくるんですよね。ここに営業やコーディネーターが入るとワンクッション、ツークッション入って要望や要件にブレが生まれることもある。ピントがあわないデザインに仕上がる可能性があるんです。
ウチムロ:それにクライアントに出す前に、しっかり社内チェックがありますからね。僕なんか入ったばかりですから、上にひとりと、あと百足屋がチェックしてくれるので。自分が作ったものそのままじゃないから、クオリティはある程度担保されているんじゃないかなと。
百足屋:社内チェックは厳しいよね。
ウチムロ:でもウチの会社って手掛けるデザインのジャンルが本当に幅広いので、はじめてやる分野の仕事はチェックありがたいですよ。文芸寄りもあれば、児童書、小学生向け、ラノベのコミックとか…確かに僕、エンタメ好きですけどこの程度じゃまだまだなんだ、って仕事はじめてからわかりました。もっと手を広げないと。
百足屋:うん、それだと確かにいろんなジャンルに活かせるかもしれないけど、何かひとつでも好きなジャンルがあって、それを深堀りすればいいと思うよ。ひとつ突き詰めれば、それを横展開すればいいんだから。
ウチムロ:こないだも面談でちらっとそんな話がありましたね。とりあえずやるしかないって。数こなすしか。
百足屋:そうそう。数はもう、いくらやったって足りないよ。下手でも撃ったほうがいい。鉄砲と一緒。とにかく量が必要なんだよね。
―ところが最近では「量」に対する拒否反応というか…最短距離を求める人が多いです
百足屋:うーん…それは本当に悩ましいですよね。たとえば最短距離でやったとしても、それでできればいいと思ってます。でも、それを恒常的に同じレベルで出し続けることができなければプロの仕事ではないので。恒常的に生産できないのであれば何かプロセスがおかしいわけですよね。そのおかしなところがどこか、どこを勉強したらできるようになるかって戻ることになるので、結局数やることや時間かけることになると私は思ってますけどね。
ウチムロ:まぐれ当たりじゃダメだってことですよね。本当の実力じゃない。時々天才みたいな人はいたとしても。
百足屋:そうね。でも私たちふたりとも会社の中ではお酒を飲むほうだけど、あんまり飲んでるときこういう話にならないよね。いま好きなアニメとか、お店のテレビで流れてる映画の話とか。
ウチムロ:会社周辺はクライアントさんも多いので、酒の席では仕事の話はご法度、とまではいわないが注意するように入社時に言われました(笑)。でもアニメや映画、エンタメ系の話ですから、まんざら仕事と無関係というわけでもないですよね。
百足屋:確かに。好きな人が集まってるわけだからね。逆にエンタメ好きじゃなかったら大変かも。
―ウチムロさんは将来、どんなクリエイターになっていきたいですか?
ウチムロ:そうですね…最終的にはアニメのエンディングで流れるエンドロールのクレジットにWeb制作で名前が載るまでになりたいですね。『ムシカゴグラフィクス/ウチムロ』って。
百足屋:面接のときから言ってるよね、それ。ずっと変わらない。ブレないよね。
ウチムロ:会社自体のクレジットは何度か載ってるので、夢に近いところで働いてるのかなって。
百足屋:ロゴデザインとかね。でも、そのウチムロの夢、いつか叶えようね。それを叶えてあげないとウチムロがウチに入った意味がないですからね。そこはちゃんと私の使命としてがんばるから、ウチムロも腕磨いてね。
ウチムロ:はい、がんばります。今日はありがとうございました。
百足屋:こちらこそ、ありがとうございました。
アートディレクター・デザイナー/百足屋ユウコ
デザイナー・コーダー/ウチムロユウキ
<写真左>百足屋ユウコ
アートディレクター、デザイナー。女子美術大学短期大学部服飾デザイン学科卒業。印刷会社を経て、アートディレクター益子光男に師事。2004年独立。その後、株式会社ムシカゴグラフィクスを設立。好きなお酒はジェイムソン。毎日お酒呑んでもくたびれない肝臓がほしいと思う今日この頃。
<写真右>ウチムロユウキ
デザイナー、コーダー。東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科卒業。クリエイターとしてのスキルを身につけるべくダブルスクールでデザインとコーディングを学び、2018年ムシカゴグラフィクス入社。好きな作家は西尾維新。中学の時に見た深夜アニメがエンタメ系の入り口。