ストーリーのあるアートディレクションは、美しく機能する。
クリエイター、中でもアートの領域で日々奮闘するデザイナーにとって『アマナ』は、五感を刺激する表現力に定評があるビジュアルコミュニケーションの専門集団として広く知られる存在だろう。そのアマナグループの心を動かす表現力と技術力を最大限に活かしたプランニング&デザインを提供するのが、今回インタビューに登場する福永さん所属のアマナデザインである。バックボーンから考えてビジュアルコミュニケーションを追求する上で最高の環境であることは、想像に難くない。で、あればそこで繰り広げられるアートディレクションも感覚的な側面が強いのではないか。そんな先入観を持って取材に臨んだのだが、それは浅はかな思い込みに過ぎなかった。
企画とアウトプットをつなぐ導線
―アマナデザインでのアートディレクターの役割を教えていただけますか?
ひと言でいえば、ブランドのストーリーメイクですね。あらゆるビジュアルコミュニケーションにおける、企画出しからアウトプットまでをつなぐ導線です。見えないものを見える化する、さらにいえば伝わりやすくすることが仕事ですね。
―これまでのキャリアはどういったものですか?
キャリアのスタートは不動産を扱う代理店の制作部でした。6年間、広告づくりに携わったのちに企画制作を手掛ける会社に。ここでは8年間いて、いろんな経験を積みました。どちらの会社も愛着がありますし、いまでもありがたいことに少しずつ、つながりを持たせていただけているんですよ。
―スキルアップして前職、前々職に恩返しするみたいな感覚ですね
そうです。特に最初の会社では不動産で、分譲マンションという『まだできていないものを何千万円で売る』という世界でしたからビジョンが大事で。いまにつながる土台というか、企画やストーリーを感じてもらうことの重要性はそこで培われたと思っています。
―いま現在はデジタルが多いですか?それとも紙もありますか?
アマナデザインはデジタルが強いので、仕事としての比率はデジタルかな…いや、でも紙もありますね。結局のところ大切なのは目的を叶えるための企画とストーリーであって、アウトプットの媒体は手段というか手法にすぎないので、お仕事を受ける際にはあまり意識していないというのが正直なところです。
―逆にアマナデザインならでは、といった特徴的なことは
アマナが築いてきたビジュアルブランディングへの信頼と、そこにそれぞれの領域のプロフェッショナルが集ってきていることでしょうか。この先、何歳になっても伸び続けられる気がします。加えて年齢問わず尊敬できる人が多いですね。個々の自己完結スキルが高い。若い方が賢明に何かをかなえようとしている姿から多くの刺激を受けています。
“いちいち”こだわる、ということ
―ご入社9か月目ということで、そろそろ乗ってきた感じ?
それが今たまたまピークを迎えていて。ふだんは5つぐらいのプロジェクトを同時並行で動かしているんですが、その数が16にも膨らんでいて。もちろん受ける、受けないは自分でコントロールできるんですが、ありがたいことに一つのお仕事を評価していただけた結果、派生してオーダーをいただけました。
―早くも売れっ子ですね
いえ、本当にありがたいことだと思っています。でも、ひとつひとつの案件に丁寧に向き合うためには、もうちょっとセーブしてもいいかもしれません。
―福永さんが仕事の上でこだわっていることって何ですか?
こだわりは…いちいち、いちいちこだわる。細部にまで。そしてつくること全体に。やはり、いただいた依頼に対してそこまでやらなくていいよ、というところまで追求することで人の心を動かしたい。いわれたものをその通りに返すのではなく、必ずプラスアルファをつけることです。
―オリエンをヒアリングだけで終わらせない
すべてにちゃんと理由がありますし、なんとなくいいんです、なんていうのはこの仕事に就く以上もってのほかですから。それと、わたしたち、ではなく、クライアントの作品なんだ、という自覚も大事にしています。
―デザイナーも駆け出しのうちは表面にこだわってしまいがちです
もちろん私も最初は小手先のテクニックで精一杯でした(笑)。だからというわけではありませんが、アドバイスできることといったらコンセプトを大事に、ということですね。コンセプトがしっかりしていれば案がブレない。目的や主軸を押さえないとデザイン案はエンドレスに出てきてしまいます。だからクライアントともコンセプトをベースに意思共有することが大切かなと思います。
―だとすると、仕事のフローで一番大事なのは最初の打ち合わせ?
そうですね、重要視しているのはヒアリングや初回打ち合わせですね。主治医みたいな意識で、問診していくというか。その中でその商品や企業、サービスに惚れること。そのためにもクライアントとはフラットなスタンスで向き合います。時には言いにくいことも言うべきですし。そういった関係性の構築が、最終的にはいい仕事につながると考えています。
人と人との関わりをつくっていく
―いま、クリエイティブを取り巻く環境は大きく変わろうとしています
たとえばクリエイティブの成果がデジタル環境によって、より数値化されやすくなっていますよね。でも、やっていることは昔から変わらないと私は思っています。それは、人と人との関わりをつくっていくこと。たとえばさまざまな取り組みの結果、フォロワーが増えたとする。でも、それを数字だけで見るのではなく、一人ひとりのファンとしてとらえる。
―1クリックの裏側に人がいる、ということですね
やはり人の心の琴線に触れることを、どのような媒体でもやっていくべきだと思うんです。私は紙からキャリアをスタートしたんですが、それがいまWebに変わっただけ。場所が変わっただけで、これまでもこれからも本質的なところは変わらない。なにがしかの思い、理由、そしてストーリーをちゃんとつくることが大事でしょう。
―それは、たとえばAIに代替えされない領域ともいえますね
逆にそのあたりを疎かにしてモノを作っていくとどんどんオペレーティブになっていき、結果AIに取って代わられることになるんじゃないでしょうか。それならAIの方が早くて正確となってしまうし、どんどん自動でやってもらったほうが誰しも楽ですし(笑)。
―そういった時代に駆け出しクリエイターがすべきことってなんでしょう?
企画ですね。デザイナーであれなんであれ企画することが大事です。なぜそれをやるのか、をしっかり考えること。たとえばただInstagramを取り入れるのではなく、何のためにInstagramを選ぶのか。この思考習慣を身に着けるべきだと思います。
―思い浮かんだ疑問をそのままにしないってことですね
電車で中吊りを見て、なぜこの色なのか、なぜこのフォントなのかを考える。ポスターを見て、なぜこのブランドはこのアプローチを採用したのか、なぜこの場所に掲出したのかを考える。小さなことを拾っては考えて、自分なりの答えをつくる癖をつければ、分析力も相当あがると思います。世の中に出ている表現物にはいろんなヒントが詰まっているので。
―ロジックを鍛えよ、ということ?
もちろん感覚も大事ですよ。若い感性で好きなものをどんどん集めていってほしい。それがアイデアの種になるし、引き出しが増えることにもなるから。でも、それを仕事として世の中に出すとき、それはなぜなのか、をきちんと肚落ちさせる必要があるんです。そうして初めて蓄えてきた財産が使えることになるから。
―インプットとアウトプットをつなぐものが「なぜ」なんですね
こういう仕事に就いていると、休日に街を歩いているときも気づいたらインプットしてたりして。なんでもすぐ仕事で見ちゃうような体質になってくるんですよね。しんどいときもあるけれど、でもすごくいいことなんですよ。これまで何気なく見ていたものを仕事というプロの目で見られるようになったんだから。一人前になったんだ、と自分を認めてあげたらいいと思います。
―本日はありがとうございました!
福永 星
神奈川県出身 代理店でキャリアをスタートさせ、制作プロダクションを経て2018年9月よりアマナデザインにジョイン。両親ともに編集者という家庭で書籍に囲まれて育つ。中でも多かったのは絵本で、現在のキャリアに少なからず影響を与える。休日は美術館巡りや映画鑑賞、自転車で近くの公園を散策するのが定番。趣味は読書で、装丁買いが好き。紙の本でなおかつハードカバーであることにこだわる。人に勧められた本はほぼ読むようにしているとのこと。