ロールモデルはひとつじゃない。だからデザイナーとしてのキャリアを描きやすい。
ダイナマイト・ブラザーズ・シンジケートは自らを『デザインコンサルティングファーム』と位置づけている。編集思考とアートディレクションを掛け合わせることで新しい価値を創出しているのだ。そのクリエイティビティはGODIVAやSTUDIOFIVEなどのブランディング、あるいは美術手帖などのエディトリアル、星野リゾート「界 遠州」をはじめとするパッケージデザインから確認することができる。今回はそんな同社で活躍中のアートディレクターとデザイナーに対談の場をセッティング。日々どのような環境でクリエイティブに取り組んでいるのか、ざっくばらんに語っていただいた。
ふだんの人柄がいいクリエイティブ集団
細野:僕は今年で入社4年目になるんですが、前職のキャリアが結構長いんですよね。小さなエディトリアルの事務所で10年やってたんです。
平野: 10年!?長いですね。私は新卒でここに入ったから…今年3年目でアシスタントからデザイナーに無事昇格できたところです。
細野:そうかそうか、平野さん新卒だったよね。確か入社したとき、いろんなチームをローテーションで回る研修みたいなのがあったけど、あの時に仕事を見たのが最初か。
平野:細野さんのチームではもう少し年齢が近い先輩に直接教えていただいていたので、あまり印象に残ってないんじゃないですか?
細野:うーん…そうだね(笑)。まあ、一回り違うからさ、会話をなんとか噛み合うようにしないと、と気は遣ったよ。そういうのは上の人間が努力することだからね。
平野:そのあとに本配属されたんですが、私は企業や商品のエディトリアルとかブランディングを主に手掛けるチームでした。ロゴとか、グッズ作ったりしてます。細野さんはファッション関係に強いチームですもんね。
細野:だけどなぜかファッション以外もやってたね(笑)。ウチのチームはADとその下にチーフがいて、あとはデザイナーという構成。多いときで10名ぐらい。だいたい他のチームも同じ感じだよね。
平野:配属後はチームの先輩たちからものすごく丁寧に基礎を教えてもらえたことを感謝しています。アシスタントだし、できないことだらけでしんどい毎日だったんだけど、居心地の良さに助けられました。先輩方も話しかけやすくて、優しい方が多くて。
細野:そうだね、僕も前の事務所の雰囲気や感じとは全然違う印象です。外から見るとダイナマイトってハイセンスで、いかにもエッジの効いたアーティスト集団と思われるかもしれないけど、みんなふだんの人柄がいいんですよね。朝もきちんと10時に揃ってるし(笑)。
個性を出していく若手、原点回帰するベテラン
細野:これまでやった仕事で印象深いものってある?
平野:大変だった、という意味では画像の切り抜きです。単純作業なんだけどすごく量が多くて。結構しんどかった。当時は一点に10分ぐらいかかってて、やってもやっても終わらないような気がして。マウスをクリックする指の筋が痛くなるほど。
細野:でもそのおかげでいま楽なんじゃない?
平野:そうなんです。あの経験があったからこそ、いま秒で切り抜ける(笑)。量をこなしたことでスピードと質が上がることを実感しました。細野さんは?
細野:僕、音楽好きなんだけど、ある会員誌の企画で坂本龍一さんと高橋幸宏さんの撮影に立ち会うことができて。で、僕が細野じゃないですか(笑)。細野晴臣さんはいらっしゃらなかったんですが、ご挨拶するときにお決まりのネタみたいな感じで盛り上がって。すごく緊張しましたが、いまでも印象に残っています。ラフから相当気合い入ってたし。
平野:メジャーなクライアントも多いし、有名な方にお会いする機会もたくさんありますよね。私は岩手出身で大学も仙台だったから、まさかこんな全国区の、誰もが知っている企業やブランドのお仕事ができるなんて夢にも思ってませんでした。だから帰省の度に親に「これ私がやったんだよ」って。
細野:田舎の親御さんなんてデザイナーが何やってるか絶対わかってないでしょ。
平野:そうなんです(笑)。だから発売された本とか、パッケージデザインしたお菓子なんかを持っていくと「すごいね」って言われて。それがうれしい。最近はデザインにもこだわりがでてきて。いい感じで自分を出していけたらな、って思っています。
細野:ああ、なんかわかる。
平野:アシスタント時代からずっと基礎を教えていただいて、それをきっちり守ってきたので。デザイナーになれたので自分なりの個性も出したいなと。些細な事なんですが罫線をいじったり、レイアウトをちょっと変わった風にしたり。ADももっと面白くしていいんだよ、って自由にやらせてくれるんです。
細野:それ、僕もそういう時期があって。ダイナマイト入ったころにいろいろやって、やりすぎて自分を見失いかけたこともあった。そのときに基礎に立ち返ったんだよね。罫線のミリ単位での調整や余白の取り方とか。どんな案件でも自分が手掛ける以上は少しでも美しく整えて出そう、と。そうしたら上手くいくようになって。だから今は原点回帰。一度、トライしてからの原点回帰だから厚みが違うし、崩すこともできるんだよ。
受け継がれていくクリエイティブのDNA
平野: 教えていただいたことで今でも覚えているのは、最初からデザインしようとするな、ってことです。やっぱり最初は全然デザインできなくて、ラフなんかも読み込んでいなかったんですよね。
細野:企画の内容をきちんと理解して、世界観を決めてからはじめるとちゃんとデザインできるでしょ?
平野:はい、企画を読んで自分なりに考えていくと、どういう色?どんなあしらい?ってことが判断できるようになって。そのころは基本的なことが本当にできていなかったんですよね。もうほんと、教えてもらったことがたくさんで感謝しかないです。
細野:いま悩んでいることとかはないわけ?
平野:うーん…まだなんかデザインの幅がないというか、引き出しをもっと増やしたいです。どうしてもかわいらしいデザインになってしまうことが多くて。何を作っても同じというか、結構似たような感じになるんですよね。
細野:いろんな媒体をやっていて、ターゲットがそれぞれ違うんだよね。なのに似てきちゃう。でも頭でわかっていれば大丈夫。作業していくうちに違いが作れるようになるよ。肝心なのは頭でわかっていることだから。
平野:ありがとうございます。ダイナマイトってクリエイターの層が厚いから、こんな風に悩みをぶつけるとすぐに答えがかえってくるんですよね。しかも何歩も自分の先を行っているプロからの助言だから、説得力あるし。憧れの先輩もたくさんいるし、目指す姿がハッキリしているんです。
細野:これからこの業界で頑張ろう、と思っている若い人に何かメッセージ、ある?(笑)
平野:わたし、まだ若いんですが(笑)そうですね…やっぱりいろんなデザインを見ることが大事なんじゃないかな。たくさんインプットして、いいな、と思ったことをストックしておく。それを自分なりの解釈を経てアウトプットできるといいですよね。いいもの見ないといいもの作れない、っていうのも先輩の教えでありましたし。
細野:僕は若い人たちには臆せずいろいろやってほしいと思う。きっとたくさん失敗すると思うんだけど、それでもどんどんチャレンジしてほしい。みんな頭いいし、センスもある。僕の若い頃とは全然違う。でもその分、突拍子もないことをする人が少ないなと。もっと思い切りよく、生意気だって思われるぐらいでちょうどいいんじゃないかな。そういう若手と仕事したいですよね。
平野:細野さんとはふだんあまり仕事での絡みはないんですが、今日はいろいろと教えていただきありがとうございました!
細野:いやいや、こちらこそ。では慣れない撮影に入りましょうか(笑)。
アートディレクター 細野隆博
デザイナー 平野結唯
<写真右>細野隆博
1982年埼玉県生まれ。美術学校では現代美術を専攻。防水材の調色工場でのアルバイトを経てエディトリアル中心のデザイン事務所に就職。2016年より現職。好きなデザイナーはピーター・サヴィル。
<写真左>平野結唯
1994年岩手県生まれ。工業大学のデザイン学科でデザインの基礎知識を学ぶ。2017年新卒で入社。2年間のアシスタント業務を経て2019年より現職に。好きなデザイナーは吉田ユニ。