人の営みへの理解と洞察こそ、クリエイティブとマーケティングの共通項。
DMP、MA、オムニチャネル、アドテクノロジー…主にWebを主戦場とするクリエイターにとって、デジタルマーケティングにおけるキーワードを耳にする機会は少なくないだろう。しかしどこか「別の世界の話」と捉えてはいないか。あるいはメディアなどでよく目にする「AIが人間の仕事を奪う」といったテキストも、自分はクリエイティブな仕事だから大丈夫、と無視をきめこんではいないか。実はデジタルマーケティングやAIといった技術革新こそ、クリエイターが正面から向き合い、味方につけるべき武器なのだ。「いや、そうはいっても…」というあなた、株式会社ブレインパッドでプロダクトデザイン部とコミュニケーションデザイン部を率いる上川さんのインタビューをぜひご一読あれ。
プロマネからプロモ、イベント企画まで
―現在のお仕事についてお聞かせいただけますか?
部署としてのミッションは、マーケティングにデータを活用していくためのサービスやプロダクトの開発です。その中で私は『Rtoaster』というDMPのプロダクトマネージャー業務を主に手掛けています。開発方針の策定や機能追加のスケジューリングを決めていきつつ、開発やデザインとやりとりしながら全体を動かしていく役割ですね。
―聞くところによると他の部署も管掌されているとか
はい、それ以外にも自社開発製品のBtoBマーケティングですね。リードの獲得からナーチャリング、それを営業にパスするという定番業務はもちろん、広報部門と連携してプレスリリース作ったり、イベント企画したりセミナー開催したりメディアとやりとりしたり…。
―ちょっと聞いているほうが混乱してきました(笑)
もともと根が新しもの好きというか、飽き性なところもあって(笑)。あれこれ手を出していたところ今のような形になりました。特にプロマネ業務は私自身が完全に文系なので、現場でよくエンジニアやデザイナーに怒られつつ、やりとりしていきながらだんだんと慣れてきた感じですね。
―頭の切り替えが大変そうです
切り替えは…確かに仕事によって使う頭は全然違いますけどね。意識していることがあるとするなら、まずお客様のこと。そしてお客様もそうですがエンジニアも人間だし、ビジネスサイドの担当者も人間なわけです。であれば前提というか、どこから話すか、どう話すかを気をつければ大丈夫。それができれば頭の切り替えそのものはあまり意識しなくても良いのではないでしょうか。
結局、相手を知ることが一番大事
―広告やクリエイティブも自動化が進むんでしょうか
創る、という部分が自動化されるのにはまだ時間がかかるでしょう。ただ出来上がったクリエイティブの中でどれが最適かを判断する工程はすでに自動化されはじめていますよね。この手の話になるといつも出てくるのが、将来的に仕事がAIに取って代わられるんじゃないか、ということ。本来、対立構造で語るテーマではないと思うんですよね。
―取って代わられる役割はありそうですけどね
これまで経験や勘が頼りだった領域をデータで再現してみせると、マーケティング側の人間よりもクリエイターやプランナーのほうが興味を示してくれることが多いです。そういう人たちの勘が当たってるところもあれば、そうじゃないところもあるんですが。
―勘が外れるとベテランの場合、立つ瀬がないというか…
勘が外れた、ではなくて、新しい発見だと。そう捉えられる方はデータやAIを武器にできる素地があると思います。一方でデータを使えばなんでもすごく良くなる、みたいな風潮もまたおかしいかなって。結局、データって過去の積み上げなので直線的な予測は可能なんだけど、いわゆる“ハネる”ことを求められてもできないわけです。
―何が流行るか予想したい、みたいなニーズですね
そうです。同じようにビジネスも予測不可能な世界で、そういうところをデータだけでなんとかしようというのは間違っていると思います。そこってクリエイティブの介在すべき領域ではないかと。定量的な数値よりも、どういったユーザーがいて、どういう興味があって、どういったものを届ければビジネスが伸ばせるか。要は相手を知るということです。
―なるほど、人間理解が肝要である、と
ある種トレンドでもあるCXとかパーソナライズ。これらはデータによって実現すると言われています。でも顧客体験というからにはまずお客様を知らないとはじまらない。その上で自社がどういう体験を提供できるのか、どういう設計で届けるのかって話です。さらに一人ひとりに合った体験、つまりパーソナライズのほうが気持ちいい。だからこそ、相手がどういう人なのかを知るのが重要だと思うんですよね。
きっと世界は回帰する
―ますます物事の本質に近づいていく印象です
相手を知るってことはこれからのクリエイターに最も必要なことなんじゃないでしょうか。上手く創る、綺麗に創るというのはテクノロジーの進化でハードルが下がってきていますし。そういうこだわりも大事でしょうけど、忘れてはいけないのは「誰にそれを提供しているのか」じゃないかと思います。
―それを正確に、解像度高く見える化するのがテクノロジーだと
アナログの時代ではなかなか難しかった、お客様やクリエイティブの受け手の生の声を拾いにいけますからね。一方で束でデータを捉えたときにどれくらい成果が出せているかも見える。定性的な生の声と実体としての成果、両面取りにいくと最終的に「人」に行きつくわけです。その「人」とはどういう人なのかを理解するのが重要なんですよね。
―データの奥に人の営みがあるんですね
これから世界はインターネット以前に回帰していくような気がしますね。技術が発達すると情報を伝えられる対象が広がるので、その奥にいる人が見えにくくなる。それがデータの力によって見えるようになると、結局どんな相手なの?ってところに行きつくんじゃないかと。
―むしろ昔ながらのクリエイターが活躍できる?
そうですね。極端な言い方するとリスティングとかディスプレイ広告だけをやっている人たちは、データを見てこっちのほうがCPAが上がりそうだ、とかCPCが下がりそうだ、がメインでしょう。でもいずれそうじゃなくなっていく。数字を見ているだけでは通用しなくなるんじゃないかと思います。
―相手を知ることがクリエイターにもマーケッターにも必要だと
どのターゲットに何を伝えれば面白いと思ってもらえるか。買ってもらえるか。そのためにどう伝えるか。どういうコンテキストで届けるか。その部分ですよね、AIに取って代わられないところって。必ずしも全部自動化、全部最適化ってわけじゃないし、そうなる前に必ず逆張りする人が出てくる。そういう意味で歴史は繰り返すというか、回帰するだろうなと。
―最後に、上川さんご自身のビジョンをお聞かせください
うーん…自分のこととなると先が読めない(笑)。一つ言えるのはオペレーティブな仕事をしているのだけは嫌だなってこと。何か変わること、常に変化し続けていたいと思っています。さっきも言ったけど性格的に飽きっぽいし、新しいものを追いかけるのが好きなので。
―ありがとうございました!
上川 晃二朗
1985年 神奈川県横浜市生まれ 大学卒業後、新卒でレンタルサーバを主力で扱う事業会社に就職。一年目はテクニカルサポート、二年目にプロモーション・マーケティング、そして三年目で商品企画と幅広く業務を経験。2013年1月ブレインパッドに入社。DMPプロダクトの導入コンサルからキャリアをスタートさせ、3年前より現職に。 趣味は『キングダム』をはじめとする歴史ものの漫画。おすすめは『アド・アストラ』『へうげもの』など。また無類の新しもの好きでもあり、いいなと思ったものを勢いで買ってしまうこともしばしば。